2004.12.22 〜 2005.1.3











 暖冬といわれる空も今日になり、かなり冷え込みがきつくなってきた。俺は登山用のリュックに荷物を詰め込む作業に没頭していたが、やがてふと外を見ると雪が降り出している。まあ、積もることはないと思うが。

「大丈夫なの」
 妻は車のハンドルを握りながら俺の方をちらりと見た。
『大丈夫だ。今回、移動はほとんど列車になるし』
「絶対にキャンプしちゃだめよ」
 これが今回、旅に出してもらえる条件だ。冬のキャンプは禁止、すべて宿をとること。

 しかし、車から降り背負ったリュックの重さはなんなんだろう。肩にぐっとめり込む感じがした。

 妻が不安そうな顔をしながら、俺の方へ手を振っている姿を確認し仙台行のバスに乗り込んだ。この瞬間、俺は、どんな旅へ出るときでも軽い焦燥にかられる。ようやく立てるようになったが重い腰痛に苦しんでいる妻を残していくことも気が咎めた。

 仙台行の高速バスは、意外に混み合っていた。おそらく仙台駅前のクリスマスイルミネーションを見学に行くつもりなんだろう。バスの中は異様な静寂が保たれており、外は仙台市街が近づくにつれ薄日が差してきた。
 仙台駅到着。

 仙台港フェリーターミナル行バスの出発時刻まで、かなり間がある。駅前で画像でも撮ってみるかと思い、デジカメをセルフタイマーにセットした。

 パチリ!

 こっ、こらあ。鳶に油揚げ・・・じゃなく鳩にシャッターポイント盗られちまった。こんこんちきめ!
 夕刻、仙台港フェリーターミナル到着。

 フェリーに初めてタラップから乗船した。ほとんど人気のない通路を歩く。闇の中から轟っと響くエンジン音が、旅情を沸きたてた。

 客室に入るとなんか変?ここは禁煙なのに白い煙がもうもうと漂っている。

 え?   
  ちなみに俺は愛煙家だ。職場内全面喫煙などの横暴さにも腹を据えかねているタイプだと付記しておこう。でもダメなものはダメだ。禁止の場所と指定されているのだから。

 事件は2等の大部屋で起こった。職人風の10人ぐらいの集団が、公然と禁煙の船室で煙草を吸っていた。他の客は怖くてなにもいえないようだ。そこへいきなり喫煙室でどうぞと注意されたものだから腹を立てた(逆ギレした)らしい。

「なんだテメーは」

 なんて展開から紛争が起きかけたが、誰かが警備員を呼んできて、まあまあということになり一度は騒ぎが沈静化した。

 その後、件の連中がマージャン部屋へ場所を移したので、船室は暫し静寂が保たれた。

『さっきは参ったな。まさか客室で煙草を吸うやつなど近年見たことがない』
 隣の学生風のにいちゃんに話しかけると、
「本当にそうですよね」
 彼が溜息まじりに囁いていた刹那・・・

「もう、そんな話をするんじゃねえ」
 また険悪な空気が流れだした。さっきの残党がまだ残っていたのか。

 その男はよく日焼けした顔で俺の顔を睨んでいた。

『ここでは、他の客に迷惑になる。部屋の外で話をつけようぜ』
 男を外へ連れ出し、ミゾオチに強烈なフック(これが一番速くケリがつく)をかまそうとしたら、
「俺は釧路出身の下請けでよう、立場があの連中より、かなり弱いんだ。同じ仕事をしても見入りが少ねえ。なにせ不景気だからしゃあねえけど。でも、あんたに強気ででられると、こっちは楯になるしかねえんだよ。もう本当にこの辺で勘弁してくれや」
 拍子抜けするくらい気の弱そうな声だった。
『そうだったの。オジサンもいろいろ大変なんだな』
 おっさんの愚痴を訊いていたら、俺は完全に同情してしまう。
「向こうで缶ビールでも飲むべや」
 自販機でビールを奢ってもらった。

 旅の初日から波瀾を呼ぶ男・・・

 そして、いつの間にか意気投合してしまい、マージャン部屋から戻ってきた連中も入り乱れ、ロビーにて痛飲。いや宴会か。時の過ぎゆくままにヨッパライダーキタノのシナリオになる。

「キタノさん、さあ、部屋で寝ましょう」
『す、すまねえ』
 つまり、早い時間に撃沈し、諸氏に両腕を抱えられ客室へ強制収用されてしまったみたい。俺は存外酒が弱い?なんだか、よく覚えてねえし。

 旅先で、こんなしょうもないことばっかりしている事実が妻にばれたら、二度とひとり旅ができなくなりそう。

 また最初っから飛ばし過ぎというか、こんなに無茶苦茶な展開で、きちんとストーリーを完結できるかどうかも微妙?

 翌朝・・・

『頭が痛え』
 やっぱし、ひでえ二日酔いだぜ。        
 もう苫小牧港が眼前に迫っている。思ったより雪が少ないが完全防備で船を下りた。

『あっ、あれえ雪がねえじゃん』
 周囲の人たちは意外にカジュアルな服装が多く、南極越冬隊員のような格好の俺は思いきり浮いていた。天気もいいし・・・

 駐車場の雪も融けてるし・・・
 とりあえず朝からなにも食べてなかったので、ターミナルのレストランでブランチタイム。日替わりランチのような定食をオーダー。味は地元の旬の素材を活かしていてまあまあかな。 

 ここから札幌まで高速バス(中央バス)で移動するつもりだが、JRを利用するよりも時間的に早いし、料金も格安(1240円)なのでお薦めする。
 レストランのレジの下に貼られていた。

「一歩前に出る勇気があれば、きっと何かがはじまる」

 俺がというより、うちのサイトが提唱しているコンセプトじゃねえか、まさに!

 なんて悦に浸っているとバスに遅れそうになる。

 走れ!あっ勘定・・・
 慌てて中央バスに乗り込んだ。乗車率80%というところだ。運転手が高速道路が閉鎖されているので、お急ぎの方は苫小牧駅で列車にどうぞと言っているが、とくに急ぐ旅ではない。冬の北海道の道をじっくり拝んで行こう。

 苫小牧を出ると雪が多くなってきた。やがて風雪に。このあたりは苫小牧に向かうときによくバイクで通る道だ。夏とはまったく違う風景だと思ううちに眠りに落ちていた。
 バスは札幌に向けて、雪を掻き分けながら大きな排気音を唸らせている。



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