オロロンライン



第7話



元旦宗谷岬その1



 2010年 大晦日

 早朝に目覚め、シャワーを浴び、心身を清めた。

 ホテルの最上階での朝食バイキングを済ませる。でも最低限の量に抑えた。渡道以来、どうも腹が張っている状態が続いている。キャンプ旅だと長くなっても朝食は簡単な自炊が多いので、こういうことにはなり得なかった。筆者の場合は、宿旅の連続の方が野営より難しいのだ。

 ちなみに普段の自宅での朝食は、トースト1枚・目玉焼き・少しのサラダ、あとはコーヒーのみ。野獣といわれたキタノなのに、近年は上品な女の子のように慎ましかったりする?

 8時、札幌駅前発の稚内行のバスに乗った。このバスに乗っておられる方は宗谷岬の初日の出が目的の方ばかりだと思われる。

 まずは、道央道で深川方面を目指し、高速が尽きると下道で留萌に進んだ。道北方面に入ると時折、激しいブリザードが吹きつけ、車体が揺れた。北の大地の冬の厳しさを痛感する。
   留萌を過ぎると青空が見えてくる。

 そして・・・

 オロロンラインだ

 すげえ。冬のオロロンライン、初めて拝んだ!

 アドレナリンが噴出しまくり、この時のぼくは大興奮状態に陥っていた。
 雪に埋もれた”おびら鰊番屋”で、トイレ休憩。売店は既に年末年始休業に入っており、開いてなかった。

 しかし、しばれるねえ〜

 苫前の風力発電を見上げている頃、
「ちょっと聞きたいんだけどねえ。沖に見えている島は天売かい?焼尻かい?」
 年配の夫妻の旦那さんから訊かれた。
 
『あの島は天売ですよ。羽幌からは距離的に焼尻の方が近いのですが、天売は南に位置するのでここから見えるなら、天売島に違いありません』
「詳しいんだねえ。行ったことがあるのかい」
『10年ぐらい前にふたつの島に渡りました』
「道民でも、よほどの旅好きじゃないと、あの島にはなかなかいかないからねえ」
 オジサンは妙に得心されていた。

 バスは、厳冬期のオロロンラインをどんどん北上していく。
   
 てしお道の駅到達。

 ここって、鏡沼海浜公園キャンプ場のあたりじゃねえか!おおっ、何年振りだろう?体がわなわなと震え、懐かしすぎて号泣しそうになる?もちろん売店は休業。トイレ休憩だけで、すぐに出発となった。

 やがて、電柱も消える無人地帯上サロベツに入った。

 残念ながら、窓ガラスが曇り過ぎて撮影できなかったが、サロベツ原野という手つかずの大パノラマが真っ白に覆われていた。

 素晴らしすぎる・・・

 とても言葉じゃ表現できないなんて感激している頃、海側に利尻山が浮かんでいた。やがて、微かに礼文の島影も・・・

 もう、筆者はこれ以上多くのことは望みません。最高です。
「ずいぶん熱心に景色を楽しんでおられるようだが、利尻や礼文にもなかなか行けないよね。行ったことがあるのかい?」
 今、この瞬間だけは誰にも話しかけてもらいたくなかったけど、さっきの旦那だ。
『はい、両島を3度ずつ。さらに無人島のトド島に上陸したし、利尻山も山頂まで踏破しました』
「げっ、あんた何者だ。札幌の人だよね」
『福島市民です』
「ちょっとあんた、このバスに乗ってる方は札幌の人ばかりだよ。道民じゃないのに、な、なんで、そこまで?」
『まあ、北海道病ってやつだ。つまり俺は普通じゃないし、道民でもない。だが人呼んで北のサムライ!』
 ぼくは不敵に微笑み、雲に覆われた利尻山の頂上付近を凝視した。

 オジサンは、こいつはこの世の者じゃないという不気味そうな表情を浮かべながら、うなだれてしまったそうな(一部架空)
   稚内到着。今宵の宿は、稚内全日空ホテルだ。防波ドームの近くなので、よく目にしている立派なホテルである。もちろん泊まるのは初めてのことだ。

 指定された部屋に入ると、再びツインで広々。窓から見える稚内の眺望も見事である。普通に泊まったら何万円になるのだろう?またも格安プランでお世話になります。
   
 その後、知らないうちに出来ていた稚内天然温泉”港のゆ”で汗を流す。広くて新しい温泉施設で、とても評判がよいそうだ。ただ、大晦日だけあって、かなり混み合っていた。露天風呂も完備だが、辿りつくまで凍死するかと思うなり。

 早めに風呂からあがり、休憩室にて生ビールを賞味した。風呂上がりの一杯は至福の瞬間だ。

 あたりが暗くなりかけた頃、ホテルへ踵を返した。
 夕食は和食か洋食かセレクトということなので、洋食を選んだ。カフェレストラン「マリーヌ」の今宵のメニューは・・・

 お食事前の小さなお皿、本日のスープ、サーロインステーキ(おろしポン酢)、ライス、北海道産ハスカップのシャーベット、コーヒー。とても美味しいコース料理だったし、ボリューム満点で大満足です。そういえば昼食をとるのをすっかり忘れていた。
 
 
 さらに21時〜22時まで、年越し蕎麦(エビ天2本入り)が無料サービスとなった。

 素晴らしすぎる。

 よっ、日本一!稚内全日空ホテル!

 夏でも使わせていただきます。

 その後の筆者は、せっかくだから稚内駅前付近で一杯やろうとして、ホテルの外に出るもアイスバーンとあまりの強風で人間帆掛け舟状態となり、身動きがとれなくなった。

 このままじゃ死ぬなあ。でも最北の街で最期を遂げられるなら北の男の本懐

 とにかく、匍匐前進で踵を返し、部屋に戻った。

 実は稚内の中心部には気になる店が何件かあったのだが、キャンプ場から距離があるので夜の店は断念していた。でもいつか夏に飲みに出てみよう。

 なんて考えつつ、小説を読みながらウイスキーを傾けていた大晦日。窓の外の稚内の街の夜景が吹雪に霞んで見える。

 2010年もいよいよ終わりかなんて独りごちた。

 一応、妻に電話で、今年1年ありがとなと言っておこう。

「うるさいわね。今、紅白に集中してんだから電話なんか切るわよ」
 いきなり怒られてしまう始末。

 なんだか虚しい最果ての街の大晦日であった。

 明朝は待ったなし、ホテル前5時発のバスに乗らないと宗谷岬に行けないそうだ。

 ハヨ寝よ!
 



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