第4話



十勝川温泉にて その1



 少し頭が痛いが、多分風邪ではないだろう。アルコの影響という噂だ。しかし、高さ15階からの眺望は圧巻である。札幌が朝陽で輝いていた。暫し見とれてしまう。

 ゆっくりとシャワーを浴び、着替えをすませるとさっぱりとした心境となる。荷物をまとめ、ショルダーバックを背負うと重い。これでも相当取捨選択して来てるはずなのだが。ツーリングの時の荷物は、この数倍になるので、どんだけマシンに負担をかけてきたのだろう。

 フロントで清算を済ませ、アイスバーンの歩道をとことこと歩いた。やっぱり札幌の朝は冷える。

 口から白い息を蒸気機関車のように噴き出しながら市街地を散策。今朝は、流石に朝食バイキングをとる気にはなれず軽食で済ませようと思っていた。上陸してから本当に食傷気味の状態が続き、あっさりしたフーズがよい。

 ところが、なかなか店が開いてない。というより、そういう店がない。地下鉄に乗り、札幌駅に着て目にしたのが、ドトールコーヒーだ。ここで、コーヒーとソーセージサンドで済ませよう。

 ドトールって、横浜在住の学生だった頃、よく利用していた。バイト先のすぐ近くに存在し、当時、コーヒー一杯が150円と格安だった。ソーセージサンドの味も今もそのままである。というわけで軽く朝食を済ませ、再び駅周辺を散策する。

 ほどほどの時間に駅前から十勝川温泉行きのバスに乗り込んだ。これから2泊3日程の温泉旅行に出かける。北のサムライもこの1年流石に疲れ果てた。モール温泉で、さっぱりと垢をおとしませう。

 天気は、どんよりとした曇りだったが、次第に荒れてきて、雪が横殴りに吹きつけてくる。バスは、千歳・追分を抜け、やがて行き止まりの夕張で道東道を下りた。
 
 R274沿いの物産センターでトイレ休憩。マリモッコリならぬ、メロン熊というキャラクターグッズが売り出されていた。ぞんがい人気のお土産らしい。

 運転じゃない筆者は、夕張石炭ビールなる地ビールを賞味する。寒いけど喉が渇いていたので美味しくいただいた。

 再び出発し、カーブが多い石勝樹海ロードで、樹海苑(行きつけのラーメン屋)はどこだなんてきょろきょろ眺めているうちに爆睡。いつの間にか十勝川温泉付近まで来ていた。

 札幌から、ちょうど4時間ぐらいである。

 ここから、宿泊する旅館ごとにお客さんがバスから降りていくのだが、ぼくが泊まる宿は一番手前だった。

『お世話になりました』
 まだ若いドライバーさんへ礼をいいながら外へでた。

 一番手前といっても周囲には、なにも見えない。十勝の大平原が真っ白に広がっていただけだ。つまり完全な一軒宿である。

 旅館は、まさしく昭和の匂いが漂う温泉宿であった。愛想のよい従業員のオバサンに部屋まで案内される。 
   ちなみにぼくはひとり旅です。連れはおりません。

 つまり、ツインの部屋を一人で使ってよいというわけだ。その分、割り増し料金はかかるが、もともと格安パックをネット予約したので、びっくりするぐらいのリーズナブルプランである。これで収益があがるのだろうかと心配になるくらいだ。
 お風呂は文句なしの十勝川モール温泉である。この温泉はとても効能が高く、世界に2つしかない植物起源の有機物を含んでいるそうだ。日本ではモール温泉は、十勝川だけだっていうじゃない。たいしたもんじゃねえか。

 さっそく温泉に浸かるとツルって足元が滑りそうだ。でもこれがいいらしい。このつるつるが、”美人の湯”とよばれるイワレだ。内湯と露天があり、湯は源泉かけ流しで温めだ。筆者は、早風呂なのだが、久々にじっくりと長湯させていただいた。
 夕食もこれぞ旅館の料理という感じだが、さりげなく地の物を活かしていた。どうやら長芋が名物らしい。

 生ビールを飲みながら食べたら、またしても食傷気味となる。でも美味しゅうございました。
 
 少し休んでから、もう一度温泉に浸かり終えた。そして、広々とした客室のベットにて横になる。

 飲んで食べて、素晴らしい温泉に入って、もうこれ以上の贅沢はございません。これでコンパニオンとかあげたら凄いことになるんだろうなあ。そんな勇気も予算もございませんが。

 それでもぼくにとっては、なんて贅沢な旅なんだと思うのと同時に、これが真の男よと呼ばれた北のサムライの旅のスタイルかと首を傾げてしまうなり。

 でもまあ、ぼくも歳なもんで、たまにはいいか(^^;

 こういう感じの老舗温泉宿って、ハマりそうだねえ。


 書き忘れてましたが、この宿に着いた早々、ロビーで温かいお汁粉をご馳走になってから部屋に案内していただきました。

 とっても美味しかったし、何気ない宿の気配りに深く感じ入った次第です。



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