第1話



乗船



 北のサムライが約2年半の沈黙を破り、北へ向かって始動した。

 妻に福島駅までクルマで送ってもらう。

 途中、ネックガードで顔を半分ほど隠したら、
「不審者と間違えられるから、絶対に福島市内でそういう格好をしないでよ」
 と、念を押された。
『大丈夫、ぼくは温厚な顔立ちなんで、今まで1回しか職質を受けたことがないんだ』
「え?1回でもあるの」
 彼女は驚愕していた。

 とりあえずネチネチといろいろと釘をさされてから、新幹線フォームへ向かった。

 コンコンと雪が降っていた。

 新幹線に乗ってしまえば、あっという間に仙台駅到着。本当に速いものだ。
 遅い昼食はアーケード内の天下一品ラーメンで済ませた。相変わらず、不思議な味(おいしいけど)である。

 旧さくらの百貨店前からバスで仙台港へ向かった。雪のせいか市内の道路は混みあっており、仙台港FTまで、かなり時間がかかった。
 最初は混んでいたバスなんだが、暗くなったFT前で降車したのは、ぼくを含めて2名だけだった。

 乗船手続きを済ませ、ターミナルの待合室へ入ると煙草くせえ〜

 ぼく自身が煙草をやめて敏感になっているのもあると思うが、喫煙室から明らかにモクモクとニコチンの煙が漏れている。

 そして、乗船待ちをしている客の皆さん、なんだか怪しい。オッサン(ぼくもそうだけど筆者より上の世代の人たち)が既に酒を飲みながらだべっている光景だった。夏のFTとは対極をなす雰囲気だ。大陸に向かう移民船?
 ニコチン、アルコホールが渦巻く楽しい待合室に乗船案内の放送が流れた。久々にタラップを歩いたら、なんだか急に緊張感がこみ上げきた。

 もう、後戻りはできない・・・ 
 
 太平洋フェリーもなんて久々なんだろう。キタノさんも船を使わず自走してみてはとネットで余計なことをいう知らないオジサンもいたが、やだね。ぼくはバイクの旅も好きだが、船旅もとても大好きなんだ。実は、子供の頃の将来の夢が、商船か客船の船長になることだった。
 それに筆者の旅は北の大地だけに専念したいもの。東北の人間だし、青森までなら何度か走ってるんで、北海道とセットにする必要も特にない。

 なんだか、北の大地の旅って、本州の旅とわくわく感のレベルがなまら違い過ぎるっしょ。この高揚感、旅全体のスケールの差は覆いがたい事実だと確信する。

 夕ご飯は、初の夕食バイキングにチャレンジしてやろうかとも考えた。でも昼食の天下一品ラーメンがまだ胃にもたれており、とてもじゃないが無理だ。ヨットクラブという軽食コーナーでミートソースのスパゲティで済ませた。

 服装は、長袖シャツと下はジャージ。靴ではなくスリッパに履き替えている。船旅は、ラフなスタイルで過ごすのが、快適なのだ。

 ギャー・・・

 決して子どもが嫌いなわけじゃない。むしろ逆な性格なのだけど、廊下を絶叫しながら駆け回る喧騒を懸命に堪えながら、ビヤを飲み本を読みまくった。親御さんは、ほとんどお子さんを放置プレイしているが、船内ではいつものことなのだ。

 佐々木譲の小説”警官の血”、もの凄い内容で、思わずチキン肌が立ってしまった。佐々木さんて、”振り返れば地平線”という、北海道ツーリング小説の作者だよねえ。

 それがね、どこでどう変わってしまったのか?

 警察官親子3代60年に渡る熱いストーリーは、まさに大河小説である。

 深夜・・・

 低気圧の影響か船がよく揺れるなあ。

 B寝台に横たわりながら独りごちていた。

 学生の頃、初めて太平洋フェリーに乗った時も同様ぐらいの揺れだったと思う。なぜか若い頃は、船に弱く酔いまくっていた記憶があった。オッサンになった現在は、まったく影響なし。そういう感覚が鈍化してしまったのだろうか。血圧は高くなったけど。

 この船室もオジサンたち(含自分)でびっちりである。

 加齢臭、もっ、もとい、MG5とナフタリンの香りが濃厚に漂っていた。

 風呂入ったか?歯あ〜みがいたか?はあ〜ビバビバ! 



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