磐梯山山頂

2005.7.17〜7.18







 早朝に目覚め、犬の散歩に出た。すると3連休初日の昨日とはうって変わり日が差しているではないか。

 北海道ツーリング2005を来週に控え、ここはキャンプ&ツーリング&山行の予行演習を兼ねてゼファーで出撃したい。

 がっ・・・

 ゼファーは車検中。車での出撃とする。今回は山道具ばかりではなく、キャンプ道具一式も車のリアへ放り込んだ。

 今朝は俺にしては珍しく出発までの作業が手間取り、心ならずも遅い登山口到着と相成った次第。既に安達太良山塩沢登山口駐車場は登山者の車でいっぱいになりかけていたが、かろうじてイプサムを乗り入れた。

 午前10時、煙草をくわえながら俺は登山靴を履き、リュックを背負った。天候はやや雲が多いものの気温が意外に高かった。額に滲む汗を拭い、改めて登山帽をかぶり直し、ゆっくりゆっくりと歩き出した。登山にしては既に遅い時間のせいか人影はない。

 だらだらとした登りの林道を一歩一歩、意識して同じペースで進んだ。熊鈴の音も森の中へこだましていた。実は今回、腰にはもうひとつ秘密兵器がぶら下がっていた。熊撃退スプレーだ。安達太良には熊が出る。でも北海道での登山ほど神経質になる必要もないのだが、これがあるとないとでは精神的な面で大きく違ってくるから不思議だ(北海道での山行を想定して持参)

 三階滝、屏風岩、八幡滝を過ぎるころ、汗が大量に噴出してきた。「くろがね小屋」まで2.4キロの標識を確認しながら持参したレモン水をガブガブ飲み、前へ前へと進む。

 途中、登山道へ横に伸びている樹木があり、くぐり抜けたつもりが、手前で腰を上げてしまい後頭部を強打。マジで痛い。これを書いている数日後も瘤がひかずさわると痛みが走る。

 やがて渓流渡りの丸木橋ポイントが続くようになるころ小休止をとる。
 清冽な安達太良の渓流を見ながら煙草を吸い終え、携帯灰皿へ火を落とした。ここで泳いだらどんなに気持ちいいことだろう、なんて思いながら大きな岩にへばりつきながら、体を横に動かす作業を続けた。

 まあ、足を滑らしたら自動的に水浴びできることになるが、そいつは勘弁だ。
 丸木橋を何度も越え、ロープにつかまりながら急な崖をよじ登り、延々と歩く。しかし、くろがね小屋はまだか?山の2.4キロってもの凄く長い道のりのような気がする。

 奥岳コースとの合流地点へぶつかるとようやく「くろがね小屋」が見えてくる。ここで湧き水(本当は沢水だった)ポイントがあったので、がぶがぶと飲んだ。冷たくて美味しい。そしてようやく温泉山小屋「くろがね小屋」に到達。

 時間はお昼を過ぎている。既に何人かの登山者が硫黄臭のなか昼食をとっていた。俺も昼食にしよう。と言っても持参したのはカロリーメイトと行動食程度だ。今日はかなり物足りない気がした。
 暫しの休憩の後、強烈な登りへとりついた。とにかくペースは遅くてもいいから休まずに登ろうと懸命に足を動かした。また大量の汗が噴出したが、熱中症対策のため水を意識して多く飲みこみながら歩く。

 途中、下山してきたおばさんがすれ違いざまに
「キツイ。わたしには本当にきつくて」
 ぼやいていたが、俺も自分のことで精一杯だった。

 頂上が見えてきた。まだあんなに遠かったっけ?
 峰の辻との合流ポイントへ辿り着くとたくさんの登山者が休憩をとっていた。俺もここで暫し休憩。ここからいったん降って、頂上への最後の急な登りへと至る。

 空が微妙な雲の色となる頃重い腰をあげた。なんだか天候が悪くなりそうな予感。

 そして最後の登りへ突入。しかし、キツイ。俺は既に肩で息をしていた。これだけ山行しても少しも山慣れしない。
 頂上にいる人の姿が肉眼でとらえることができるし、話し声も聴こえる。あと少し。重い足取りを一歩一歩動かし、ようやく頂上「チチクビ岩」下へ到達。休まず岩へとりついた。

 後ろから途中までリフトで来たという軽装のおっさんが、かなりバテた様子でついてくる。頂上への岩の先端へ手をかけ腕力でよじ登った。おっさんは断念して迂回路へ回ったようだ。
 もう5月から何回ここまで来ただろう。何度目かの標高1700メートル頂上踏破だ。

 パパ、頑張ってるぞぉ〜

「凄い体力ですね。やっぱり山慣れしている人は違う」
 おっさんは、苦しそうな息で話しかけてきた。
『いや、俺は初心者なんです。かなりしんどかったですよ』
「そうは絶対に見ませんがね」
 怪訝そうな顔で俺を見つめていた。

 おっさんに頂上踏破写真を撮っていただく。しかし、ガスが多く今日の安達太良山頂の眺望はよくない。

 時刻はアバウト14時だ。のんびりもしてられん。いつの間にか周囲から登山者の姿も消えてきた。雨にでもやられたら大変だ。頂上付近のガスの動きも怪しい。
 下山は外輪「牛の背」を経由した。ここは初めて歩くルートだが人気がない。月の砂漠をひとり歩く孤独感が漂っていた。

 誰かが、登山道を整備してくれているのだろう。岩の破片、石などが、あちこちに塔のように積み上げられていた。その光景とたちこめた霧が俗世とかけ離れた雰囲気を醸し出している。

 かつて経典を求め三蔵法師が旅した西域への道が如し。
 牛の背から見た沼の平付近。

 この風景はいったいなんだ。水墨画の光景か。実は以前は火口(沼の平)へ降りるルートがあったのだが、火山性有毒ガスの影響で現在は立ち入り禁止だ。

 しかし、晴れならば晴れで素晴らしいのだが、この天気(霧)だとまさに幻想的な気分へとひたってしまう。
 頂上付近をふと見上げると霧が一瞬晴れてチチクビ岩が顔を出した。手前には奇岩も多く、まさに明媚なコントラストだ。

 このあたりから、空腹感を感じるようになり、足に力が入らなくなる。降りなのにスピードが出ない。そしてだるい。ほとんど登りのペースと変わらなかっと思う。

 とにかく足取りが重いのだ。
 石がゴロゴロの降りをヘコヘコと歩いてようやく「くろがね小屋」へ到着。もう16時近い。恐ろしく遅いペースだ。今夜、小屋に泊るグループが、2、3組登って来たが、これで登山者の姿は消えた。

 ここから登山口までは、結構な距離がある。孤独を充分に味わいながらローペースで歩き始めた。凄い脱力感で足がふらつくものの強引に前へ前へと突き進んだ。

 原因は分かっている。昼食をきちんと取らないからだ。つまりバテ症状である。自分で勝手に山では食欲がないと決めつけていたが、やはり無理をしてでもきちんとご飯を腹に押し込めないとこうなる。極限とまでには至らないが、いい教訓になった。

 雷鳴が轟く不気味な森の中、長い道のりをくたくたになりながらも歩き続けた。そして周囲が暗くなりかけた頃、ようやく登山口駐車場へ到着。18時なり。

 前回、7時間で往復したところを今回は実に8時間も要してしまった。降りで時間をかけ過ぎだ。登山で登りと降りのタイムが同じということなど通常はあり得ないことである。

 教訓:山では無理をしてでもガンガン飯を喰え!

 明日の磐梯山踏破では充分配慮してのぞみたい(磐梯山頂上からの降りでは大いに面目躍如を果たすことになるが、この時は知るよしもない)

 しかし明日も登山するのかい?家に帰りたい気分を懸命に押しこらえた。

 もう駐車場は閑散としていた。クタクタになりながらハンドルを握り、今夜の幕営地裏磐梯ママキャンプ場を目指す。

 目が回るほど空腹だ!




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