第17話 フェリーの宴 (最終回)
  8月18日(水) 天候 晴れ         

 1999年の北海道ツーリング最後の日の朝となった。朝食をとりにホテルの1階に行く。うれしいことに朝食バイキングは、サービスとなっている。不足している野菜をがんがんいただいた。食べながらヨッシーと今日のルートを決める。夕方のフェリーに乗ればよいのだから、それまでかなりの時間がある。場所的に日高ケンタッキーファームあたりでのんびりするのがベストということになった。


 10:00チェックアウトを済ませ出発。初日通った同じルートで日高ケンタッキーファームに向かった。R239を北上し門別から左折すると牧場が点在する。

 風景を楽しんでいるうち、ファーム到着。日高の自然の中、乗馬やアーチェリーが満喫できる。スポーツや食事も楽しめ宿泊もできるレジャースポットである。入場料500円。安い。内地の入場料何千円もとる某牧場とはえらい違いだ。ただ、家族連れで来たい所だね(今の我々には似合わない)。

20年ぶり?


上半身がのけぞるヨッシー
 乗馬はすごく混んでるので、アーチェリーを体験してみる。なかなか難しいものだ。ヨッシーは、僕の失敗ポイントをよくチェックしてからソツなくこなしていた。要領のいい人だ(これが彼の生き方か?)。昼食もここで食べたがお洒落なスキー場のレストハウスといったような感じだった。ハエが気になったけど。

 ファームを出発して苫小牧に戻る。まだ時間はあるので苫小牧で人気のラーメン専門店「羅魅陀」で少し早い夕食をとることにする。場所を探すのにかなり手間取ったが苦労の末発見。な〜んだ、フェリーターミナルからそう遠くはないじゃん。

 中に入るとメチャメチャ混んでいる。しばらく並びながら店内を眺めてみると、ラーメン屋というよりも洋食屋のようなおしゃれな雰囲気がした。邪道のような気がするがお勧めのカレーラーメンをオーダーしてみる。ところが食べてみると美味い。きちんと札幌ラーメン醤油味がベースとなり、その上にカレーのスパイシーな風味が香るという感じだ。決してギドギドしたカレーあんかけラーメンとは違う。従業員の接客態度もしっかりしていて好感がもてた。すっかり満足してフェリーターミナルに向かう。 

 乗船手続きを済ませ、お土産、買い物などをして時間を潰す。フェリーは、すごく混んでるらしい。お陰で2等の雑魚寝の大部屋ではなくトラックダライバー用の寝台部屋にまわされた。ラッキー。

 フェリー前の駐車場でかなり待たされ(2輪は一番最後)ようやく乗船。素早くバイクの荷物をまとめ(この習性が身についてしまった)ドライバー用の2等寝台に向かう。

 着替えを済ませ甲板に行ってみる。いよいよ北海道ともお別れか。感慨無量だ。なにがなんでも来年も帰ってくるぞと思い、すごく切なくなってしまう。なんだか心にポッカリ穴が開いたような感じがした。

 デッキが肌寒くなってきたので、早々とフェリーの中に引き上げた。いったんはベットでウトウトしていたが途中で目が冴えてしまった。タバコを吸いにロビーに出た。9時は回っている。トラッカーのドライバーズルームのロビーは、さすがにワイルドな男ばかりだった。運転手の仕事はハードなためか、このくらいの時間になると皆さん次々に引き上げていく。

 残ったのはパンチパーマで口髭のある怖そうな感じのおじさん、カーボーイのようなベストを着たじいさん、若いけど落ち着きのあるアニキ、そしてキタノ。みんな酒を飲んでいる。誰もが腹にイチモツありそうな怪しい雰囲気が漂う。


 そして・・・

 いつの間にか宴会になってしまった。口髭は、北海道出身らしく「北海道は変わっちまった、でも俺は酋長なんだ」とかわけの分かんないことを呟いていた。カーボーイじいさんは、しきりに「うんうん」相づちをうっている。おもしろいのでヨッシーを呼んでくる。ヨッシーは、アニキと釣りの話をしている。このアニキはトラッカーではなく釣りのために来た旅行者だった。

 酒が切れてきた。アニキと僕でみんなの分の酒をカンパしてやる。ドライバーズルームのロビーでこんな騒いでいいのかいというくらい「フェリーの宴」は盛り上がった。そのうち、僕と口髭は酔い潰れてベットに戻った。残ったアニキとヨッシーは釣り話しにかなり花が咲いたらしい。カーボーイじいさんは、前後不覚に陥るほど泥酔したらしい。そして意味不明なことを2人にしつこく話しかけ、そのままソファーで撃沈したようだ。

 次の日、口髭は確かに昔はダンプに乗っていたらしいけど今は「パチプロ」、カーボーイじいさんにいたっては2等の大部屋からドライバーズルームに紛れ込んできたただの酔っぱらいオヤジということが判明した。結局、きのうのメンバーに誰もトラックドライバーは存在しないようだ。お騒がせしました。


帰還     8月19日(木) 天候 晴れ


 仙台港にフェリー接岸。早朝にちゃっかりドライバー専用のお風呂で、さっぱりしたキタノは、昨夜の皆さんに別れを告げて上陸。仙台も暑い。

 途中、南海部品に立ち寄る。ゼファーの曲がったレバーを交換するためだ。長きに渡り苦楽を共にしてくれた愛機ゼファーへ深謝し、ご褒美として「チタンゴールド」のレバーに換えてやる。少々値は張ったけど。

 帰り道、何台ものツーリングライダーとすれ違ったが、お互いにピースサインが出ない。現在は北海道だけに残る風習になってしまったようだ。

 自宅に帰還する前に喫茶店で一休みしようと駐車場に入った。ふと国道を見ると明らかに北へ向かうライダーが、こちらを向いて大きくピースサインを出してくれた。嬉しいねえ。昨夜まで、キタノが確実に存在していた北の大地がもう懐かしくなっている。そしてこれから気だるい日常に復帰するのかと思うと気が重くなった。 

 途中、ヨッシーと別れ自宅に到着。これで長く苦しく楽しい旅がすべて終わる。

 庭先でまっ黒に日焼けし、満身創痍の変わり果てた姿の僕を見て息子が逃げ出した。僕は復員兵かい?19日間も家を空ければ当然か?

 しばらく馬上にて呆然とたたずんでいると、愛犬だけが尾を激しく振りながら飛びついて来た。

 そしてゆっくりと真夏の陽が傾いていく。


 非日常のロングツーリングで人生観が変わり「何事もやればできる」という自信がついた(ヨッシー談)

 テントを撤収しなければ」と焦って目覚める日々が続いている。ベトナム症候群というやつか(キタノ談)

 北海道から帰って来なくてもよかったのに(妻談)

 僕の中の非日常はまだまだ終わらないないようだ。

 というより、北海道病が完全に再発したみたい、以前よりも遙かに強大になって・・・




記事 北野一機



北海道ツーリング1999”熱風5000キロ”



1999年10月某日UP



FIN



日数・18泊19日 走行距離・約5000キロ




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