さらばイプちゃん







2010.2.20



 とある冬空の日のことなのだが、普通に家を出て職場へ到着。その後、所要のため再び車のエンジンをかけたら、アイドリングが異様に低い。

 冷や冷やしながら、職場に戻った・・・

 刹那、エンジンが切れた。

 セルはまわるんだけど、エンジンがかからない。すぐに車屋さんに電話して、来てもらった。
「どうも、燃料がエンジンにいくポンプが故障しているようですね。この場ではなんともいえません。工場でばらしてみましょう」
 というわけで、レッカーでドナドナされていきました。

 が〜ん!

 その後、自動車会社から連絡があった。
「エンジンを乗せ換えないと回復しないと思います。とりあえず、明日、いらしてください」
 またもや、が〜ん!

 筆者の大事なイプちゃんがあ・・・

 ちょうど11年間乗ったけど、きちんと定期的にオイルやフィルターを交換してきたぜ?

 ショック・・・

 確かに長年にわたって長距離通勤で酷使してきました。15万キロも走行させた。でも、ついに買い替えかよ。妻子持ちの一馬力で、家のローンもあるのにまた借金して車を買わなければならないのかと思うと頭が痛くなってきた。絶望的なアクシデントだぜよ。

 ネット上で、ぜんぜん知らないオジサンから、直して乗れとか、勝手な発言をする投稿もあった(こういう、わけわかんない書き込みをするネットオヤジが非常に苦手だったりする)けど、何十万もかけて直すなんて現実的に不可能だ。カドヤの革のブーツを買い替えるかどうか悩んだ時も失敗した。思い切って新しい物へ買い替えた方が安いし、当然長持ちするのが自明の理である。

 で、次の車を選ばないと。

 格好にはこだわらない。けど30年ぐらい壊れない頑丈なのがいい。あと30年も絶対に生きられないと思うけど。

 4ナンバーのバン、サクシードを紆余曲折の末、手に入れた筆者は、数週間後、イプサムの車内に残留していた荷物を引き取りにクルマ屋さんへ向かった。それにしてもクシャミが止まらない。相当花粉が舞っているよ
うだ。

 途中、行きつけの食堂で昼食をとる。チャーハンと餃子をオーダーした。これがなかなかいける。餃子の表面のカリカリとした食感がたまらなかった。

 クルマ屋さんへ到着するとイプちゃんが安らかに眠っていた。既に廃車手続きも終えているらしくナンバープレートが外されていた。

 久々にイプの車内に入り、片っ端から段ボールへ荷物を入れ、サクシードへ移した。とにかく11年の歴史が詰まっているものだから、大変な量であった。既に天に召された愛犬の毛が最後部に残っているのも見つけた。すべての作業が完了し、イプはすっきりとした表情となる。最後に運転席に座りハンドルを握ったら、流石に感慨無量となった。

「新幹線みたいなカタチのクルマだね」
 購入するとき、妻が無邪気に喜んでいた。

 振り返ると辛くなるので、バックミラーを見ないでサクシードを発進させた。

 さらば、イプちゃん・・・
 
 うっ、

 だめだ、熱いものがこみあげていた。

 筆者は、未練たらたらで、弱くて情に流されやすくて使えない男だけど、クルマやバイクには恵まれてきたとしみじみと思うなり。                       



FIN



記事 北野一機



 2010.8.19編集


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