北海道ツーリング2016前編











前編終章 受難その4






 和琴湖畔キャンプ場で、だいたい5時半ぐらいに起床する。すぐに奥の共同浴場へ汗を流しに行った。2人ぐらい年配の先客がおられ、軽く挨拶をして湯に浸かった。熱くもなくぬるくもなく実に適切な温度である。

 じっくりと温泉を堪能できた。ここも手前の露天風呂も無料の源泉かけ流しだから素晴らしい。やはり和琴はいい。再認識してしまった。

 多分筆者の勘違いだと思うんだけど、手前のファミキャンのご一家が親子5人で筆者をにらんでいる。おまえ、1人でファミキャンサイトでなにやってんだよオーラ、つまりアウェー感が漂っていた。わかったよ。朝飯を喰ったらずらかるから、少しそっとしておいてくれたまえなんて思いながら、パンとコーヒーの簡単な朝食を済ました。

 長居は無用だ。歯磨き後、速攻でテントを撤収し、ビッツにリヤカーで荷物を運んだ。管理人のオッサンやヘルパーのねえさんぐらいには挨拶したかったのだが、まあしょうがないだろう。冷房をキンキンに効かせたビッツに乗り和琴半島から、美幌峠、つまり同じルートを戻るカタチとなった。

 R39、そして北見市街地を抜け留辺蘂に入る。やっぱり、ほとんど昨日とかぶっているよなんて思いながら、いつの間にか峠道に至る。やがて、石北峠PAへ到達していた。ここでお手洗いがてら小休止としよう。本日もかなり暑い日和だった。昔、ここで食べた巨峰ソフトがとても美味しかった。でも、現在は販売しておらず。残念!





 天気の良いR39を順調に走っていた。もう層雲峡には立ち寄らなくてもいいだろう。比布町でR40に入った。子供の頃、ピップエレキバンのCMに登場した地だ。

 やがて塩狩峠に到達する。三浦綾子の実話を基にした衝撃的な小説であった。峠のピークから客車が逆走し始めた時、キリスト教徒の鉄道員が線路に飛び込み殉職し、身をもって大惨事を防いだ。映画化もされている。しかも旭川で自分の結納がある当日だった。いつの日か、この地を訪れたら記念碑の前で合掌しようと、小説『塩狩峠』を読了した時に心に誓っていた。

 車に乗る前にも一礼し、塩狩峠を去った。





 R40をのんびり北上していた。気温は30度前後だろうか?なんとなくなまぬるく眠い昼下がりだった。そろそろ腹も空いてきたなんて思いながら、信号待ちでTMを見るとタイムリーなことに地元産にこだわったというお蕎麦屋さんがあるではないか。

 淳真(士別市多寄町) じゅんしんと読みます。

 かなり大時代的な雰囲気が漂う欧風な建物であった。人気のお店らしく店内は混み合っている。カウンターに腰かけ、たよろざるそばをオーダーした。暫し待つとざるそばが運ばれてきた。ぼくは正直ラーメン党でそばのことはよくわからない。しかし、一口頬張った時の蕎麦のモチモチ感、歯ごたえ、これは本物だと思った。あっという間に完食する。いなり寿司のサービスも嬉しかった。

 ご馳走様でした。 





 R40をさらに北上する。名寄の市街地に入った。さて、今宵の野営地は、どこにしよう。真夏の陽射しががんがんと照りつけている午後2時ぐらいだ。

 ツーリングマップルに無料キャンプ場”サンピラーパーク”というのがあったので向かってみたが、ゴミ持ち帰りということなのでやる気が一気になくなった。有料でもいいからゴミ箱ぐらい設置できないものかえ?本州からの旅人はどこにゴミを捨てればいいのだ?

 もう、今宵のキャンプは諦めた。一昨日泊まったビジホにしよう。

『すみません。今夜泊まれますでしょうか?』
「大丈夫ですよ。煙草はお吸いになられますか?」
『いえ、ぼくは吸いません』
「では、6,500円になります」

 後で判明したことなのだが、こちらのビジホ、煙草を吸う部屋が古くて4,500円だ。煙草を吸わない部屋が新館で6,500円かかるようだ。しまった。煙草を吸うって言っておけばよかったか?まあ、2千円程度の差なんで大局に影響はあるまい。

 ホテル内のラインドリーで洗濯を済ませ、夜は付近の居酒屋へ繰り出し、シメサバなどの肴に生ビールやハイボールをしこたま飲んでヨッパになった。値段も良識的な範疇だったので満足した。しかし、なんという名のお店だったか、まったく覚えていない。

 ビジホに戻り、あっという間に爆睡した8月12日の夜であった。






 安らかに寝坊したビジホ泊の朝。急がねば朝食バイキングが終わってしまう。普段、朝食など、ごく少量しか食べないのだけれども、ここのバイキングはなかなかいける。特に朝チャーハンが気に入った。思わずお代わりしてしまう。

 しっかりと食後のコーヒーもいただき部屋に戻る。そしてゆっくりとシャワーを浴びた。気がつけば、チェックアウトの10時近くではないか。これからどこに行こう。

 まだ、ゼファーは仕上がってないと思う。今、シャワーを浴びたばかりだけれど、温泉にでも行ってみようかいな。”なよろ温泉サンピラー”という温泉施設が気になっていたりした。

 というわけで、チェックアウトを済ませ、外に出ると今日もぎんぎんぎらぎらの凄い陽射しだ。慌ててビッツに荷物を積み込んで出発した北のサムライだった。というより暑さにへばった老いたサムライやもしれぬ?





 先ほど考えた『なよろ温泉サンピラー』へ行ってみよう。昨日も立ち寄ったサンピラーパークを過ぎた。熊本のヤタローが学生時代よく利用していたという『なよろサンピラーYH』も通過して、結構山間の渓流沿いの道を走り、ようやく辿りついた。建物はぞんがい洒落た洋館という感じだった。

 なよろ温泉サンピラー(名寄市日進)

 宿泊も集団だと割安になるようで、大学の部活の合宿の札が結構下がっていたりした。昨夜は、ここに宿泊してもよかったかもしれない。

 日帰り入浴400円。泉質:カルシウム・ナトリウム硫酸泉、適応症:神経痛・筋肉痛・関節痛・運動麻痺・病後回復期・打ち身・くじき・慢性消化器病・痔病・皮膚病・火傷・切り傷・動脈硬化症、飲用でもいろいろ効能があるらしいけど全部あげたらきりがないのでこの辺でやめておく。とにかく素晴らしい効能らしい。露天風呂こそないが、じっくりと身体の芯から癒してくれるような実にいい温泉だと思った。そして長湯し過ぎて、多少湯あたり気味になり休憩室に倒れこむ。

 時刻は11時ぐらいだ。バイク屋さんからはまだなんの連絡もない。部品を交換してもやっぱり直らなかったらどうしませう。バイクを置いて、JRの旅になってしまのか。そしてゼファーは廃車か。なんて考えていたら物凄い不安にさいなまれた。ゼファーのない筆者なんて、クリープのないコーヒーだ(古)

 その時、携帯がなった・・・

「もしもし、キタノさん。D二輪商会です。バイク直りましたよ」
 社長からだった。本当によかった。胸を撫で下ろす。
『お世話になりました』
「あと、オイルがずいぶん減っているけどどうします」
『ちょうどオイル・エレメントの交換の時期なんですよ。こちらもお願いします。これからすぐに向かいますから』
「了解しました。キタノさん、近くにいるんだ。じゃあ、お待ちしています」
 間もなくお別れとなるビッツのアクセルをあげた。





 ビッツをD二輪商会の前に横付けした。

「やあ、キタノさん。バイクは直ったよ。車でどこまで行って来たんだい」
『お世話になりました。屈斜路湖の和琴半島まで行ってきました』
「それはずいぶんいい所まで行って来ましたねえ」

 これが故障したレギュレーターと発電機です。あんたは24年このバイクに乗っていたんだって。それではいつ故障が来てもしょうがないと思いますよ。カワサキが電気系統が弱い?いや、これだけ年季が入ればメーカーなんて関係ありません。防ぐ方法は、キロ数とかで壊れなくても思い切ってレギュレーターを交換するしかありません。古いバイクの宿命でしょう。あとはオートバイ専用のロードサービスが距離が無制限でも年会費1万円程度で存在するので、加入しておくと金銭的なダメージは半減できます。

 レンタリースまでビッツを返しにいくと言ったら、意外に遠いから帰りは社長が車で迎えに来てくれるそうだ。なにからなにで本当に申し訳ない。

 レンタリースに1時間以上早めにビッツを返却したら、3千円近くの返金があった。多分、昨夜の飲み代と同額ぐらいなので助かります。またビッツは非常に燃費がよく運転し易いいい車だった。帰りは社長のトラックに乗せていただく。

 そして、現金で清算を済ませた。レギュレーター、発電機、オイル、フィルター、工賃、併せて約8万7千円の出費だった。でもこれは妥当な必要経費だと思う。あのままサロベツに取り残されたら洒落にならない。

「キタノさん、今更急いでも仕方ないでしょう。冷たいお茶でも飲んでいきなさい」
 炎天下の中、よく冷えたお茶のペットボトルがとても美味しかった。
『ご馳走さまでした』

 お礼を言ってパッキングを始めた。なんだかパッキングの作業が異様に手慣れてしまって、あっという間に完了する。

『本当にお世話になりありがとうございました』
「またなにか遭ったら、いつでもおいで」

 にっこりと優しげな笑顔を見せる社長に手を振りながらR40を流れるように南下していく北のサムライの姿あり。



FIN



記事 北野一機



2016.9.26UP完了



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