北海道ツーリング2015











12


最終章



嵐の出港



 いよいよ北海道ツーリングの最終日となった。

 この旅、最後のミッションは札幌市清田区のフレンチの名店「ラ・フランス亭」でランチを摂ることだ。

 どうも筆者にはフランス人の血が入っているせいか、定期的にフレンチを無性に食べたくなるのだ。

 本日は、札幌のオオタさんも千葉の山ガールさんも帰路につかれるようだ。

「あのう、毛無峠って、どのあたりですか?」
 千葉の山ガールさんが、村長に質問していた。
「それはねえ、ゴロウさんの頭を見ればいいよ」

 おい〜

 実際に小樽へ入る手前のR393沿いに存在する。小樽市街の眺望がなかなか素晴らしい。

「ゴロウさん、でも大丈夫だよねえ。小樽から日本海側を北に向かえば、増毛があるし」
 うっ、以前にもこんな展開があった記憶が・・・

 しかし、あんまりフォローになってない気がする。ちなみに増毛は「ぞうもう」ではなく、「ましけ」と読みます。日本最北の造り酒屋「国稀」のお酒がとても美味しい。

 荷物をマシンへパッキングした。後は出発するばかりだ。

「ラ・フランス亭にいくなら、今度こそは中山峠を通って札幌にいけますね」
 ユミさんが笑っていた。
「ゴロウさん、じゃあまた正月にねえ」
 村長が手を振りながら、オオタさんと車で出かけていった。

『行って来ます。お世話になりました』
 筆者も挨拶をして、愛機のスロットルをあげた。

 すっかり秋の空気になった中山峠を越えていく。





 真駒内を過ぎ、清田区に入った。ラ・フランス亭ももうすぐだ。ナビも”目的地周辺に入りました。案内を終了します”といって沈黙した。近くなのはわかったけれどもどこがどこだか見当もつかんぜよ。なぜか羊ヶ丘周辺とかもかすめながら、ようやく”ラ・フランス亭”に到着した。

 こういうレストランでは、正装とまではいかなくてもある程度は、紳士的な格好で入店すべきだろう。ただ、旅の途中なもので、ツーリングライダーそのままの衣装しかござらん。卒爾ながら、略装での入店、失礼いたします。

 ぼくは顔に似合わず、普段から正装とか、お洒落な洋服が意外に好きだ。若い頃より、おっさんになった昨今の方が、その傾向が強くなったと思う。クールビズのシーズンは別だが、基本的に夏服・冬服とも5着ずつスーツ・ブレザーを所有している。そして、日替わりで着こなしているのだ。ローテンションで着ることにより、服を長く清潔に使用できる。中には20年以上現役で着用しているスーツもある(もちろん定期的にクリーニングには出している)。和服はまったく持ってません。これじゃあ、北のサムライじゃない?まさに欧米か!

 実は、鳥羽伏見の戦い以降の新撰組副長土方歳三のフランス式軍服姿に昔からカッコイイと憧れていたり。髪型までオールバックにして、歳さんもきっぱりとふんぎりをつけたものだねえ〜

 やっぱり、筆者の育ちというかエレガントな生活を幼少期から続けていたもので

『福島のゴロウです。よろしくお願いします』
「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」
 礼儀正しく感じのいいウエイトレスさんの案内の通りに席に着いた。

 Cコース 3.450円 5品(前菜・魚料理・肉料理 ・デザート・パン&コーヒー付)

 筆者がオーダーしたコースだ。かつては三ツ星レストランで腕利きシェフを務めたお方が腕をふるうお料理が、この内容で、この料金などあり得ないCPだと来るたんびに思っていた(訪問したのは、この3年で5回目ぐらいだと思う)。筆者が、札幌近郊に在住なら間違いなく月に2度は訪ねているだろう。

 フォアグラと鶏肉の前菜は、上記の画像の通り。もう、前菜の域を完全に超えている美味しさだった。フォアグラの濃厚な旨さ、鶏肉の歯ごたえ、申し分なし。





 そして、冒頭画像の海の幸”松前産ソイのポアレ焦がしバターソース”。

 焦げたバターの香が素晴らしい。本当にお魚の風味を存分に活かしたお料理で大満足である。

「ゴロウさん」
 その頃、厨房のほうから、マミコさんが筆者の存在に気づき、満面の笑みを浮かべながら手を振ってくれていた。






 お肉のメイン。「ルスツ産の麦豚のソテー」である。

 飼料が麦を中心にして育てた豚のお肉だ。豚肉の臭みがまったくなく旨味だけが漂ってくる至高の味だ。栄養価も高いらしい。うっ、ワインが飲みたい。かなり誘惑にかられるが、これから苫小牧港まで愛機を運転しなければならない。いつもはアンビの村長の運転で連れて来てもらっていたので、がぶがぶと赤ワインを飲んでヨッパになっていたのだけれでも、今回はジュースで、じっと我慢の子であった。

 しかし、本当にスパイシーで美味しいポークだ。今、画像を見ながら思い出すと、まるで夢のような至福の瞬間である・・・





 さて、デザートは”フランポワーズのババロア”です。ビジュアルな画像だけでも美味しさを存分に表現できていると確信する。筆者は酒飲み野郎だけれども、こちらのスイーツの旨さは理屈抜きだ。本当に満足したランチでございました。ご馳走様でした。

「ゴロウさん、今日はおひとりなんですね」
 マミコさんから笑顔で話かけていただく。
『ええ、後は苫小牧から仙台までフェリーで帰るだけです。最後にどうしても立ち寄りたくて』
「まあ、それはありがとうございます」
 清算を済ませていると、シェフ・マミコさん夫妻からお土産まで頂戴してしまう。





 後刻、フェリー内で包みを開けてみるととっても美味な”ガトー・ショコラ”だった。本当にお気遣い深謝いたします。とっても美味しゅうございました。

 北の大地、優しくて善意の溢れる人たちばかりだ。嬉しい気持ちでいっぱいなる。





 なんと帰りがけ、ご夫妻が駐車場まで見送りに来てくれたではないか。

「ゴロウさん、ぼくはライダーに憧れているんですよ」
『それなら是非、ツーリングライダーを目指してください』
 シェフは本当に気さくで穏やかな人柄である。
「今回のツーリングは、どんな感じでしたか?」
『天気が悪くて参りましたよ。特にテントの設営や撤収の無防備な中でのゲリラ豪雨にえらい目に遭いました』
 それは大変でしたねとご夫妻はとてもいい笑顔を見せていた。





 上品なマダム・マミコさんとも1枚撮らせていただいた。以前にも書いたことがあるけど、マミコさんはうちのサイトをよくご覧いただいている読者さんなのだ。こんなHPやブログを読んでもらって恐縮です。本当に素敵な方なので、是非、ご覧の皆様方、ラ・フランス亭をご訪問されてください。

 道東の某キャンプ場で、うちのHPを見て来たといわれるのは困るけど、こちらのお店ならどうぞ永久ライダー、ゴロウさん、北のサムライのサイトを見て来たと名乗っていただいても大いに結構です。そして敏腕シェフの冴えわたるフレンチ料理の味を存分に堪能されていただきたい。ただし、事前に必ず予約をしてください。

 マミコさんは、既に出発し、信号待ちをしているぼくの姿まで見送っていてくれた。

 うっ、れっ、しいねえ〜(黒板五郎風)

 お腹一杯になりました。ごっちゃんです。もう、この夏の北海道ツーリングで思い残すことはない。





 R36を苫小牧に向かい、順調に走っていた。でもやっぱり空が暗くなってきた。強烈な台風が近づいて来ているせいなのだろうか?

 ウトナイ湖を過ぎ、苫小牧の市街地に入ろうとする頃の信号待ちで、後ろから声をかけられた。

「あの、荷物が左側に傾いていると思うんですよ」
 スラッとした長身の女性ライダーだ。BMのGSがよく似会っている若くて可愛らしい方だった。おそらく地元のライダーさんだと思う。
『ロープとネットで、しっかりと固定されているから、見た目よりも安定しています』
「それなら、いいんですけど」
 そう言いながら彼女は、信号が変わった刹那、ぼくを一気に追い越していった。

 カッコイイ。なんだか、昔(1980年代)の片岡義男の小説の中のワンシーンみたい。

 そして、市内の中心部に入った頃、

 ザー・・・・

 一気に雨が降り出した。雨の中、苫小牧港近くのお土産物さんであるサンロードで買い物を済ませた。

 少し、時間は早いけどフェリーターミナルに向かうか。途中、セイコマでアルコールや夕食などを調達した。流石に今宵は夕食バイキングは、重過ぎた。FTに到着する頃になると、雨は小康状態となる。しかし、8月の後半のこの時期にしてはオートバイの数が多かった。

 すぐに今宵のフェリー”いしかり”の乗船手続きを終えて、愛機へ戻った。

「ずっと仙台行のフェリーを利用していれば、いつかキタノさんにお会いできると思ってました」
 声をかけてくれたのは、多分、同世代ぐらいの方かなあ?東京からいらしたという、同じゼファー乗りのライダーさんだった。

 それはそれはありがとうございますというわけで、魔除けの永久ライダーステッカーを進呈する。

 やがて、オートバイの乗船が開始された。やっぱり帰らないといけないんだ。いつもながら強制的に現実に引き戻される。

「本日は、台風接近につき、スピードを控えた運行になりますので、仙台港着は2時間遅れになる予定でございます」
 といった旨の放送が流れていた。

 かなり強力な台風が接近しているからしょうがないだろう。でも船体がかなり揺れるのかなあ?

「台風の影響で、大浴場が閉鎖される可能性がございますので、お早めに利用くださいませ」
 この放送がなくてもぼくはフェリー利用時は入浴が早いから大丈夫だ。

 ちなみに深夜未明から仙台港到着まで、本当に大浴場が閉鎖になっていた。

 入浴後、ロビーでウイスキーをちびりちびりと飲みながら、窓の外の苫小牧の街の灯を眺めている頃、出航の銅鑼が鳴り響いた。

 また、雨が激しくなって来ている。街の灯がどんどん遠くなって、やがて見えなくなった。

 本当に仕事が忙しくて、今回も渡道できたのが奇跡的だった。休みがないから、今シーズンのキャンプもこの北海道ツーリングの百人浜オートキャンプ場がぶっつけ本番の最初の幕営地である。それでもしぶとく来年も北海道ツーリングができる最大限の努力はしていくつもりだ。

 キャンプ旅をしなくなった、やらなくなったとか、老いてできなくなったわけではないということを充分過ぎるほど証明できたと思う。多少、ポンコツになってきたけれど、まだまだキャンツーしながら登山も出来る実力や装備も余裕で有している。

 ”常在戦場”

 つまり北のサムライは、たとえ使用しても使用しなくても鞘の中の刃だけは、いつでも研ぎ澄まされているというわけだ。

 眼を閉じれば、エサヌカやサロベツの原野の中の一直線を愛機にまたがり疾風怒涛の如く駆け抜ける北のサムライの姿が思い浮かぶ!

 メールを何度も頂戴していたのにごめんね、ヤタロウ。不肖ゴロウさんは、ずっと胸を痛めておりましたぞ。ヤタロウくんを始め、多くの皆さんにご心配をかけてしまったようだ。

 またずいぶん長話になってしまったけれど、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。このあたりでいったん筆を置こうと思います。

 それでは、いつかどこかの旅の空にて!



FIN



記事 北野一機



2015年10月吉日連載完了



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