北海道ツーリング2012



後志




定点撮影(菅生SA)



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終章



 ういっ、昨夜は飲み過ぎてしまったわい。少し頭が痛いが、我慢して起きると素晴らしい好天だった。

 ぼくが本州に帰る頃になると天気がよくなってくるというジンクスが過去にあったような気もした。今日は、イトウさんやカワベさんも存分に登山を楽しめるであろう。羨ましい限り。

 そして朝食タイム。二日酔い気味のぼくは味噌汁がとても美味しかった。ここで視線を感じる。衰えたりとはいえ筆者は武芸者だ。反射的に横を見るとユミさんが僕の顔を見て噴き出しておられた。昨夜の筆者のヨッパなおふざけぶりを思い出し、呆れていたようだ?

 食後、外に出てマシンへパッキングをしているとカワベさんがやってきた。

『蛍、いつでも富良野に帰ってこい』

 例のゴロウネタ(超くどい)をいうと彼女は微笑んでいた。

「お盆前からのゴロウさんのハジケぶりの記録を見てなるほどなと思いました」
 カワベさんは、もう一度噴き出した。

 こちらの宿の村長さんは、実に几帳面な方でHPや動画(You Tube)ばかりでなく、手書きと写真の記録もきちんと残していた。流石元ビデオカメラマンである。You Tubeでの動画をご覧になったかたはお気づきだと思う。家人も驚いていたのだが、あの動画の完成度素晴らしさはどうでしょう。まさにプロ中のプロだ。

 そして、カワベさんは右手を差し出し握手してくださった。

 もう、なんというラッキーなことなんだろう。この旅では、実に2度も若い女性から握手していただいたことになる。奇跡だ。

 エロオヤジなぼくは、もとい、純情すぎる筆者は思わず赤面してしまいましたぞ。そして、胸にこみあげるような(二日酔いとは無関係です)感慨深さを感じていたりした。

「ゴロウさん、またね。来年は羊蹄山登ろうね。気をつけて」
 村長さんが屈託のない笑顔を見せながら車に乗った。イトウさんやカワベさんも車窓から手を振っていた。

 ユミさんとぼくも手を振り返す。

 旅に終わりがやって来るのは寂しいことだ。でも終りがあるからこそ旅は美しい。人生の縮図だと思う。 
   宿代など清算し、今回12年ぶりに購入した ”とほ”の一番後ろのページに10個目のスタンプを押していただいた。

「まあ、うちのスタンプばかり」
 ユミさんは喜んで、10泊記念のとほ宿手拭を進呈してくれた。

『それでは行ってきます』
「いってらっしゃい」
 旅の宿でのお別れはこれに限るのだ。
 ゼファーは好調だ。酷暑の道道478を走行しているとかなり喉が渇いてきた。たまらず羊蹄のふきだし湧き水Pに入る。ところが、二輪車の駐輪スペースは一番奥らしくガードマンから誘導されかかった。だめだ、ここから歩いたら余計喉が渇きそう。というわけでUターンして喜茂別へと向かう。

 きのこ王国脇に湧き水があったので、ここで喉の渇きを存分に癒した。あやうくミイラになりそうだったが蘇った。 
   
 支笏国道を悠々と走る。支笏湖の水の色はいつ来ても美しい。週末のわりに交通量が少なく、あっという間にモーラップを通過した。あとは一気呵成に苫小牧の街へ下るだけだ。

 実は近年混み過ぎて入れないマルトマ食堂(市場食堂)で久々にホッキ飯を食べたかったのだ。ようやく辿りつくも凄い行列。しかも最後尾に”本日ここまで”という立て札が出てるし。というわけで、今年も潔くマルトマ食堂での昼食を諦めた次第です。

 それなら以前から食べてみたかった営業時間2時間半という幻のラーメン屋さんを訪ねてみよう。場所は勇払、店の名は”鳥よし”という。とにかく伝説的なお店なのだ。急がねば。

 苫小牧市街地を今度は北に向かい疾駆する。標識に従いながら走るとどうにか勇払駅へ到着。

『このあたりで鳥よしというラーメン屋を知らないかい』
 チャリの中学生2名に訊く。
「しっ、知りません。本当に知らないんですから」
 ふたりは、非常に怯えた形相で逃げていく。
『おっ、おい。オジサンはね、決して怪しい者じゃないんだよ。ルー、ルー、ルー』
 虚しい叫びであった。なんてコンコンチキなのだろう。

 さらに進みセイコマがあったので缶コーヒーを購入。店員さんから場所を訊くと丁寧に教えてくれた。ここから結構近いぞ。

 ようやく”鳥よし”に辿りつくも時間は13時4分。閉店時間は13時だったようだ。まさにタッチの差で入店できなかった。こうなったら来年こそは絶対にここでラーメンを食べてやると誓う北のサムライであった。

 それにしても10時半開店13時閉店とは鳥よし恐るべしっ!

 さて、昼食はどういたそう。とにかく麺類がよい。”麺類は人類”うっ、自分で言いながらもとてつもなく古すぎるCMのフレーズだった。暫し思案し、カレーラーメンで有名な味の大王で摂ることにした。

 苫小牧市街をやや南下し、R36で札幌方面へ向け走る。なんだか、ずいぶん右往左往してるぜ。まあ、フェリー乗り場には出港2時間前の17時ぐらいに着けばよいので余裕があるからいいが。

 えーと、ウトナイ湖あたりだと思ったが、なんてワタワタしているうちに通り過ぎてしまったようだ。

 でも少し先の交差点を利用してUターンし、味の大王総本店へ到着する。 
    お店の看板は派手だけど、手前の駐車場が広いせいか意外に目立たない店舗だと思う。R36も何度も通行しているのだが、まったく気づかなかった。

 メットを脱いでいるとすぐ近くにツーリングライダーがマシンを停めていた。お客もライダーさんが多い。0円マップかなにかで紹介されているようだ。 
 オーダーしたのは元祖カレーラーメン+トッピングチャーシューだ。暫し待つと強烈な内容のラーメンが登場だ。ぼくがいままで食べていたカレーラーメンというやつはベースが醤油ラーメンだったり、味噌ラーメンだったりしたものだが、ここのカレーラーメンのベースはカレーそのものでしかない濃厚な味だ。なにより辛い。まさに豪快の一言に尽きる。なんとも刺激的な旨さでした。もう、晩ご飯ぬきでもいいやと思うぐらい満腹になる。  
 お口の中をヒリヒリさせながら外にでると、入店する時も一緒になったライダーさんが、ご丁寧に会釈をして出発していく。ぼくもお辞儀を返したのだが、ナンバーの地名をうっかり忘却しちまいました。だから家人から人に疎いといわれるのだ。もう少し、他のライダーにも関心を示せば、より内容のあるレポになるんだろうがなかなか。まあ、昨今衰えてきて、自分のことだけでいっぱいという事情もある。

 そしてまたマルトマ食堂近くのサンロードというお土産専門店街へと舞い戻る。本当に苫小牧の街の中をいったりきたりしているなあ。

 家人から特にお土産はいらないとは言われていたのだが、社会人がこれだけ家を空けて手ぶらというわけにもいくまい。時間をかけ、しっかりと吟味した安いお土産をセレクトし、宅配の手続きを済ませた。

 これでやるべきとはすべて終わった。2012年夏の北海道に思い残すことはなし。

 苫小牧港へ到着すると既に乗船手続きが始まっていた。やや遅れ気味になるも無事スロープを越え”いしかり”に飛び乗った。

 さっそく入浴し、ビールタイムへと突入。夕食は、お昼に食べたカレーラーメンがまだ充分腹に残っていたのでパスする。ビールも重くなったので、余市ワインをすいすい飲んだ。

 そして、いつものようにソファーで爆睡する始末。深夜未明に目覚めて、こそこそと寝台へ戻るキタノさんの姿あり。しかし、まったく成長してしてないなあ。むしろ退化してんじゃないかい北のサムライは?

 翌朝、朝食バイキングをしたたかに食べまくったぼくはかなり食傷気味となり、下船の放送が入るまでベットで横になっていた。もう間もなく仙台だ。出発した頃がとてつもなく昔のことのように感じた。

 そうか、筆者は幕末の江戸にタイムスリップしたんぜよ(嘘)。と思えるぐらい長く充実した日々であった。

 仙台上陸、なんだこのバカ暑さは?もう負けそう。ふにゃふにゃになりながら仙台南部道路〜東部道路〜東北道を駆けた。

 菅生SAで暑さに耐えかねて、かき氷を食べた。おっ、いしぃねえ(田中邦衛風)←いい加減やめねえかい。ベンチの屋根?にはキウイが実っていた。こういう風(葡萄みたい)になるんだなんて感心してしまう。

 やがて福島県に入り、国見SAでも小休止。ここまで来て焦ってもしょうがない。小用を済ませ、ゼファーに戻る。

「この永久ライダーというスッテカーが気になりました。先日、知床岬踏破の記録を読んだもので。知床岬に行ったのですか」
 練馬ナンバーのライダーさんから声をかけていただく。

『知床はバイクで通ったけど、今回は岬に行ってません』
 あの記録を読んだばかりの人は、キタノという男は知床岬へ向けて今現在も歩いていると錯覚してしまうのだろう。

 あの記録は2005年、もう7年も前の記録です。”水曜どうでしょう”の企画で「激闘!西表島」とかやっていた時代だ。こんなにオンボロになった自分にテントを担いでシリエトクまで歩く元気などございません。

「キタノさんって、もっと硬派で荒々しいイメージがありましたが、ホームページと印象がずいぶん違いますね」
 よく言われることである。
『硬派キタノも今では、ご覧の通りふにゃふにゃな軟弱野郎ですよ』
 練馬のライダー氏は爆笑されていた。
「明日から仕事ですか」
『ええ、そうです』
 彼は頑張ってくださいと礼儀正しくお辞儀をし、出発していった。

 ぼくも家に帰るか。スロットルをあげるとサイクロンから軽快なサウンドが流れてきた。おい、ゼファー、なんだか帰宅できて嬉しそうだな。

 その刹那、パン、パンッとマフラーから不完全燃焼の排気音が高らかに鳴り響いた。



FIN



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記事 北野一機



2012年10月吉日UP完了