北海道ツーリング2006








屈斜路湖



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 今日から野営再開だ・・・

 と道楽館を勢いよく出たものの・・・

 雲は低く垂れ込め、どんよりとしてあたりは暗い。そのワリに湿度は高い。やっぱりやる気が出ない陽気だ。なんとも気が滅入るし。

 ええい、こういう陽気だからこそ、永久ライダーの真髄を発揮できるのだ。自らにハッパをかけ、旭川方面へ向かう。目指すは天塩町鏡沼海浜公園キャンプ場にあり。

 なんだか数日前とは比較にならないぐらい空いている旭川市内へ突入。
 ふらふらと走っているうちに春光台公園に着いてしまう。春光台は旧陸軍の演習地だったらしいが、現在はキャンプ場やさまざまな施設が造成されている。

 しかし、ここも誰も居ない。あれほど人混みが嫌だったくせに、誰も居ないキャンプ場っていうのもやはり寂し過ぎる。

 雨上がりの水溜りだけが、祭りの後の侘しさのように残っていた。
 その後、曇天の中、日本海側に向かうべく道道72を北上する。

 途中、江丹別Pで小休止。やはり人気がまったくない。空は真っ暗だけど、空気だけは悶々とヌルイ。本当にコンコンチキな陽気だ。

 やがて、R275(通称空知国道)と合流。広大な畑を横目に走り、道路がガラガラの幌加町内を抜ける。

 多分、一度も走ったことのないルートだ。
 すると・・・

 「せいわ温泉ルオント」の看板が目に入った。この道の駅で昼食にでもするか。愛機を駐車場に停め、レストハウスへ入った。

 そして「風神そば」をオーダー。まあ幌加内蕎麦だが、これがまたコシがあり美味い。天然ワサビを自分で擂るスタイルだ。
 ただ、若干、値段が高めだし、量ももう少し欲しいところかな。

 ツルツルと蕎麦をすする。あっという間に完食。

 どうやら、この道の駅には温泉施設もあるようだ。まさに至れり尽くせりだな。

 暫く、消化のため、レストハウスで休憩。蕎麦をもう一杯食べたいところだが、我慢した。

風神そば
 腹も落ち着き温泉へと向かう。

 せいわ温泉は、泉質はナトリウム塩化物温泉で、実にいい湯だった。露天風呂も岩風呂でとても風情があり、つい長湯してしまった。

 お湯は、やや黄色に濁っており、いかにも効能がありそうで、とても気分がいい。ここはお薦めの温泉だろう。 
 利用料5百円也。

 ちなみにルオントとはフィンランド語の「自然」という意味らしい。とても小奇麗な感じの道の駅だし、バリアフリーも整っている。北の大地の底力は、こういう無名の(失礼ながら)地域でもこれだけ旅人に配慮した施設が存在するところだ。

 かなり、さっぱりした気分で、さらに北を目指す。

 ふと空を見上げると羽幌方面の空は低く雲が立ちこめ、薄暗くなっていた。これは日本海側は間違いなく雨だ。俺の旅の勘は冴えている。逆に道北内陸部は青空が覗いていた。

 暫し悩んだ挙句、空知国道と霧立国道が交差するあたりで、内陸部士別方面へルートをとることに決めた。鏡沼海浜公園キャンプ場は残念ながら断念。

 士別の街へ出ると不思議な空だった。それはR40上空だけが細長く青空になり、延々と筋になり北へ伸びている。この道を行くしかないようだ。

 俺はまるで十戒を授けられたモーゼのような気分。このまま約束の地カナンへ行けというお導きか?

 熱風を切り裂くように風連、名寄の町を通り抜けていく。なんだかEOC前に通ったルートをそのまま逆戻りしている感がある。

 そしてあたりが暗くなった頃、森林公園びふかアイランド着。どうやら旅というテープを逆戻ししてしまったようだ。

 受付を済ませ、キャンプサイトへ入るとお盆のような激混みはないが、人気のサイトだけにそれなりにテントで埋まっていた。

 例のおじいさんは、そのまま住み着いているようで、ブルーシートで覆われたテントの前にキャンプ椅子を出し、ボーっと佇んでいた。

 俺は、そこよりも手洗い場に近いアズマヤ横にスペースを見つけ物色していると、
「そこは昨日まで、ソロの女性ライダーが設営して場所なんだが、今朝、出発したようなので空いているよ」
 通路を挟んで向かい側のテントを張っている老夫婦のご主人が親切に教えてくれた。
『ありがとうございます』
 俺は礼を言い、さっとエアライズを組み立てた。
 やはり、蒸し暑いがハリケーンランタンとヘッドライトを灯し、じっくりと歴史関係の本を読み始めた。

 酒はグランブルー。こいつをちびりちびり飲みながら、活字を追う。

 意外と思う方も多いかもしれないが、俺の最大の趣味はキャンプツーリングだが、同じぐらい好きなのが実は読書だ。ほとんど活字中毒かも知れない。
 大勢でわいわいやるのも好きなのだが、対極をなす孤独で静かなロンリーオンリースタイルの世界もたまらなく愛している。

 基本的に本を読まないと文章表現が上手くいかない。モノを描く基本は読書だ。自己満足ではなく、見知らぬ人の心にさえ熱い想いが伝わる読み物が描ける。これが、納得させる文章のベースだと思う。

 なんて、この場では深く考えてもいないが、今宵も酔い心地となり、いつの間にかシュラフにくるまって熟睡していた。
 翌朝は早朝に起床。今朝はきちんと米を炊こう。俺に米のクッカー炊きの失敗はあり得ない。長年培った0.5合炊きの技は冴える。本当に綺麗に仕上がった。

 おかずは旅団で仕入れたイワシのチミケップ、もといケッチャプ煮の缶詰だ。それがほかほかご飯と味噌汁に実によく合う。

 もりもりと平らげた。
 その後、テントを撤収しR40をふたたび南下。このまま走ってもつまらないので道道49へ左折、オホーツクを目指す。

 しかし、凄え山の中。人気もまったくないし、道幅も非常に狭い。ここでガス欠とか故障になったら、どうしようとマジでビビった。

 やがてトロッコ王国のノボリが見えてきた。
 そして吸い込まれるように入場。

 ここは昭和60年に廃線になった国鉄美幸線の線路を利用し、エンジン付きトロッコを自分で運転できる施設らしい。

 うっ、これは・・・

 俺も乗りたいところだが、お客さんのほとんど、いや全部がファミリーかカップルの団体のため、泣く泣く諦めた。

 いつの日か家族で来ようと自分に言い聞かせ、スロットルをあげる。

 空は曇天。湿気が凄く蒸し蒸しするなかをゼファーは道北内陸部をひたすら駆ける。山間の草原にはやはり離農した廃屋が目立ち、なんとも形容し難いペーソスが漂っていた。

 この天気、この光景、実に寂しい。

 移りゆく景色がとても長く感じて、悶々としてきた頃、ようやくオホーツクだ。雄武町へ入ると潮風の香がとてもよく漂っていて、非常にホッとした。

 そしてオホーツク国道をひたすら南下。
 紋別あたりで、昼食。

 店の名は忘却したが、ナメタガレイ定食を食べるとなかなか美味しかった。食後にコーヒーまでご馳走になる。

 TVでは高校野球中継が放映されていた。今日は決勝だ。トマコマ対ハンカチ王子の早実。

 どうやら両雄一歩も引かず延長の大熱戦らしい。
 もし、早実の相手がトマコマじゃなければ、俺は躊躇わず早実を応援していたろう。しかし、対戦しているのは北海道代表のトマコマである。北海道病の俺がトマコマの3連覇を祈らないワケがない。

 トマコマ、頑張れ〜

 と呟きながらスロットルをあげた。もうタンクバックの中のラジオは点けっ放しだ。 
 しかし、走行中にラジオの音など聴こえない。この試合の展開はどうなっているのだ。気になって気になってどうしようもない。

 道の駅「愛ランド湧別」に入ると施設内でもラジオ中継がガンガン流れていた。やはり延長で緊迫した一進一退の攻防。

 頭を冷やしに建物の裏手へ出てみるとオホーツクの海上には青い空があった。
 佐呂間町、旧常呂(現北見市)をそわそわしながら走る。そして網走国道へ右折する。やはり機首は自然と和琴に向いてしまったようだ。

 美幌町の市街地に入る手前で小休止。煙草に火をつけラジオを聴くと、なんとトマコマ対早実、延長15回の死闘でも決着がつかず引き分け再試合らしい。もの凄く壮絶な決勝戦だ。
 渋滞気味の美幌市街を抜け、美幌峠へ向かう。途中、コンビニで今夜の酒と食材を購入。ワイディングを縫うように走る峠道はとても心地よいが、途中からガスがかってくる。

 美幌峠Pあたりに来ると、そのピークに達し、周囲は真っ白で、視界ゼロに近い状況になっていた。まあ雨にやられるよりはマシだ。

 ゆるゆるとパイロット国道を降りて行く。
 そして・・・

「おかえり〜」
 管理人のおじさんの声がした。

 ようやくキタノの道東のベース和琴湖畔キャンプ場入り。

 長い1日というか、今日はずいぶん走った。

 テントを張り、夕食の準備。
 今宵は肉野菜炒めだ。もっと凝ったものを作りたかったのだが、まあ、あまり料理が得意じゃないもんで。

 本当は和琴について、ここでもじっくり描きたいところなのだが、管理人さんに迷惑をかけるのは永久ライダーの本意ではない。

「永久ライダーをインターネットで見て和琴に来てみました」
 という方が増えると困るので自粛する。

 正直言って、無関係の和琴の管理人さんたちへネットの威力がここまで影響を及ぼすとは思わなかったので、ちょっとヘコんだ。

 前半でも描いたことだし、ここでの和琴の2日間については、あまり具体的に触れない程度の内容でとどめるつもりだ。

 話を戻して・・・

 肉野菜炒めをつつ、今夜は久々に珈琲酎を煽る。

 ひとり静かに単行本を熟読しながら横になった。

 屈斜路湖の波は、とても静かで優しい響きを立てている。

『やっとここへ帰ってこれたよ』
 熱風の中の転戦につぐ転戦で、ボロボロにバテた俺は、小さな声で呟き、すぐに意識を失った。 



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