GW2005



万世大路公園Pにて



 あたりが薄暗くなる頃ママキャンへ戻った。

 今夜のママキャンのテント数は、ざっと20張ほどだ。昨日より倍増している。やはり、ほとんどはGWを利用して首都圏方面からやってきたファミキャンだった。なかには札幌から来たという老夫妻もいて凄いと思った。ファミキャンの皆さんの多くは、カヌーやボートを持参して日中は釣り三昧にふけっているようだ。

 さて暗くなる前に晩飯の準備をするかと炭を熾している頃、
「北野さん、今夜は昨日よりは暖かいべえ」
 作業帰りの管理人のおじさんが声をかけてきた。
『ええ、昨夜よりは、昨夜よりはですがね』
 俺は種火を焚き火台に移しながら応えると
「夜中も昨夜ほど冷えないから大丈夫だよ」
 おじさんはにっこり頷きながら売店の方へ去っていく。

 本当に冷えなきゃいいんだが。俺はパーコレータに水を入れ、バーナーの上に乗せた。そして嫌な予感がひしひしと押し寄せていた。
 195円だけあって、鉛筆のように細い木炭を種火の上に乗せた。細いので、すぐに炭が赤く燃え出してくる。

 今夜は焼き魚だ。グリルネットの上に塩をまぶした赤魚を乗せ炭で炙る。いい香が周囲に立ち込めてきた。しかし、一人でこれだけ喰えるかな?飯を炊かずに魚だけで済ませれば大丈夫か?まっ、なんとかなるだろう。

 焼酎の梅ワリをチビチビと飲みながら調理バサミで、魚を裏表に返す作業を繰り返した。
 やがて魚が焼けだしたので、酒のつまみにしながらガツガツと食べ始める。いやあ、炭で焼いた魚は本当に美味い。酒もすすむ。グイグイ飲んで、ガンガン喰らう。俺は野営のこの雰囲気がたまらなく好きだ。

 そうだ。裏磐梯はHBC(北海道放送)が受信できんだ。新調したANDOのラジオを聴こう。こいつは多少値がはったラジオだから期待できる。

 と思ったら・・・

 短波とFM専用じゃん。AMが聴けねえぞ。こんこんちきめ!しかも短波もFMも感度が非常に悪いし。もうがっかりだ。

 それにしても焼き魚、かなり腹一杯だ。あと少しなんだけどもう喰えん。なんて思っていると丁度いいヤツが来たぞ。犬のダイだ。
『ダイ、ほらご馳走だぞ。喰え』
 とダイの口元へやるとパクッとくわえた。
『どうだ?美味いだろ』
 と言うとダイはなんと、ここ掘れわんわんしてるじゃねえか。おまえ、せっかくご馳走したのに埋めてんじゃねえよ。

 なんて騒いでいるとまたまたファミキャンのおかあさんが現れ、平身低頭しながらダイをつれていく。ついでに埋められかけた焼き魚も「ダイの夜食に」とか適当に言って引き取ってもらった。

 気温がどんどん低下していく。もしかしたら昨夜より寒くなるかも知れない。日中、かなり暖かだったから放射冷却現象になると思ったんだよな。風もなかったし。俺は焚き火台に体をくっつけるようにして暖をとった。

 しかし、放射冷却が起きるような夜は星がとても綺麗だ。こぼれんばかりの星空を見ながら酒をすする。ベロベロに酔い出してきた。

『俺は寒さなんかにゃ負けねえよ』
 なんて呟いてみたりしているうちに

 いつの間にか、その場でうたた寝をしてしまった。

 さっ、寒いっス!
 寒さで目覚めた。炭が消えてんじゃん。195円の安い木炭だから、すぐに燃え尽きてしまったのだ。やっぱり安物はそれなりということだ。反省しても遅い!

『凍死しちゃうよ』
 こんな寒い中、俺は外で寝てたのか。気がつかなかったら、そのまま朝になって俺の体も冷たくなっていただろう。マジでもう少しで死ぬところだったじゃねえか。ブルルル。体がガクガク震えているし。
 とにかく酔うためじゃなく暖まるためにパーコレータに日本酒を入れ、バーナーで超熱燗を作って飲んだ。今、何時だろう。11時ぐらいか?キャンプ場は寝静まっている。

 しかし、ここのファミキャンの人たちって最強じゃねえか。あちこちから平和そうなイビキが響きわたっている。こんなに寒い中、安らかに快眠されている人ばかりだ。

 俺は熱燗を飲み干すとすぐにテントに入り、シュラフに潜ってシュラフカバーをつけた。でも冷え切ったバディはガクガクと震え、なかなか寝付けなかった。

 深夜から早朝へかけても恐るべき寒さで何度も目覚めては、またウトウトするの繰り返しだった。そして、ハッと気づくといつの間にか明るくなっており、キャンパーたちの朝の喧騒が始まっていた。でも俺は、気温が上がってきたこの頃から本格的に寝て睡眠不足を補うつもりだ。

 陽のあたる参天のなかはまさに天国。早朝から9時ぐらいまで実によく爆睡した。お蔭でテントから這い出る頃には、爽快感が全身を覆っていた。

 今日も天気がいい。トラメジーノでベーコンマヨネーズのホットサンドをつくって朝食にしたが、このベーコン、実は購入してから3日目なんですけど。まあ、これを書いている今現在も大丈夫だからよしとしよう。

 キャンプ道具を片付け参天を撤収させ、パッキングを完了させる頃になるとかなりいい時間なっていた。昼近いし。

「ダイがすっかりお世話になりまして」
 飼い主のおかあさんが、ご丁寧に挨拶に来てくれた。ダイも尾をふりながら体をすり寄せてくる。
『ダイ、元気でな』
 というとダイはクンクンと哀しそうに鳴いている。俺が言っていることが解かるのか?
『旅の別れはな、失うことじゃないんだよ・・・』
 あれ?俺、犬相手になに語ってんだ。このキャンプでダイが一番関わりが深かったから動物並みの感性になっちまったか。とにかく、おかあさんとダイの見送りを受けて売店へ移動する。管理人のおばさんへも今年もちょくちょく利用させてもらうからと挨拶をして出発。
 スカイバレー方面へ暫く走るとちょっとした集落がある。その集落に「たばこ屋旅館」という温泉宿があり公共の湯も兼ねていいる。

 実はママキャンプ場の管理人夫妻も毎日ここを利用している。また去年秋、裏磐梯を訪れ、北野とママキャンで合流したキャンプ仲間のIWA氏やK茂氏も偶然ここを利用し、痛く気に入ったそうだ。入浴料400円也。
『こんちは。お風呂に入らせてください』
 俺は入口付近にマシンを停め、玄関から声をかけた。
「あら、登山の帰りですか。どうぞ」
 と親切そうなおばさんが応対してくれた。
『いや、俺はバイク乗りなんです』
 そう応えるとそれはお疲れさまと感じのいい笑顔で中に案内してくれた。

 脱衣場で服を脱ぎ、浴室に入ると源泉100パーセントの温泉が滾々と流れ出している。
 IWAさん情報によると湯船は狭いという話だったが、なかなかどうして立派なもんだった。単純温泉の湯の熱さもまさに適温。まったりと疲れをとった。ここの旅館は1泊2食でも6千円台と非常にリーズナブルなので一度利用してみたいと思った。年老いてキャンプが辛くなる時代がきたら、ここでオフをやってもいい。いや、させてください。

 温泉を満喫して玄関を出ると、なんとおばさんも外まで見送りに来てくれたではないか。
「また来てくださいね。お気をつけて」
 ただお風呂に入っただけなのに。はっきり言って、ここまで親切にされると根っからの旅人である俺は弱い。かなりジーンと来ながらアクセルをあげた。
 好天の中、スカイバレーへ突入する。ここは何度きてもスリリングな急勾配のヘアピンカーブの連続だ。コーナーを楽しみながらクリアしていき、頂上の白布峠Pで小休止したが、凄まじい雪に驚愕する。スカイバレーはこの時期でも凍結の危険性があり、17時で閉鎖とか。そしてかなり肌寒かったが眺望はお見事の一言に尽きる。

 ここで怪しいオヤジが売っていた大阪風たこ焼きが、異様に美味かった?たこもでかいし。 
 スカイバレーの長い下り道へ突入。「赤滝」・「黒滝」を横目にブルブル震えながらワイディングをクリアしていく。標高が低くなるにつれ、雪が少なくなり気温がグングン上昇していくのが風圧で分かる。

 峠を抜ける頃には、心地よい春の陽気となっていた。実に気分がよい。米沢の市街地は避け、ショートカットしながら水窪ダムへと入った。新緑と水の蒼がマッチしていて本当に綺麗だと思った。そしてR13、栗子峠へと突入する。さすがにGW真っ只中ということもあり、道が混んでいた。「万世大路公園パーキング」で小休止し、画像を1枚撮った。それが、このページ冒頭の画像である。

 途中、またも農免道路へショートカット、そして福島市内フルーツラインへと至る。天気はポカポカ陽気だ。
 桃やりんご、その他いろいろな花が咲き乱れていた。まさに百花繚乱(大袈裟か?)。福島市って冬は寒いし、夏は全国屈指の暑さとなる気候の厳しい土地柄である。しかし、今日のフルーツラインの様相はまさに桃源郷じゃねえか。最高のバイク日和だ。

 やがてR115(土湯街道)へ合流し、帰路に着く。明日は「子供の日」なんで、しっかり家庭サービスに励むこととしよう。
 旅の終わりにふと気づいたことは、俺はキャンプの前日まで高熱を出して寝込んでいたんだよな。花粉症であれほど苦しんでいたんだよな。

 奇跡だ!

 いつの間にかすべて完治している。極寒に苦労した敗退っぽいキャンプツーリングだったが、最終的にすべての病を克服してしまったぞ!たとえ過酷なキャンプでも大自然の中、マイナスイオンをたっぷりと浴びれば心身共に活性化されるのだ。

 しかし、家に帰って女房の機嫌が悪かったらどうしようと思うとまた頭が痛くなってくる北野でもあった。 




FIN



記事 北野一機



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