EOC楢葉「花見の宴」

2006.4.15〜16


夜ノ森公園にて




 頭が痛い。

 昨夜の宴会では絶対に飲み過ぎだった。

 完全に二日酔いだ。こんな状況でEOC当日を迎えた。

 シャワーを浴びふらふらしながら身支度を整え、外へ出ると日差しがあるものの冬のように寒かった。約4ヶ月半ぶりにゼファーへ火を入れた。流石に一発点火は無理だが、数度セルをまわすと愛機は蘇える。

 準備は簡単だ。ほとんどのキャンプ道具が詰まっている大きなツーリングバックを2つほどマシンへ載せパッキングをし、トップケースを固定するのみ。

 今シーズンも過積載復活となる。

 自宅前で煙草を一本吸ったがあまり美味しく感じない。
『さて行くか』
 女房や子供は既に出かけているので見送りはなしだ。

 福島市から海沿いの浪江町へ向かうR114を駆け抜ける。ゼファーは好調だが、この冷え込みはなんだ。本当に体の芯から凍えてしまう。
 阿武隈高原山間部の桜はまだ蕾だ。しかし寒い。

 ついに耐え切れなくなりDASH村近くの売店で休憩。あまり食欲がないが、玉コンニャクの串刺しを2本ほど購入。熱々のコンニャクをふうふういいながら食べた。

 そしてまた走る。車が少なく意外に順調なペースで快走する。
 峠を越え、麓へ降りた付近で右折。

 通称「山麓線」だ。県道なんだが、俺は山麓線としかいわない。きっと地元の人間もそうだろう。実はこのあたりに4年前まで住んでいた。本当に田舎だが俺にとって一番居心地のよい地域だった。ここで知り合った多くの人々との相性もよかった。

 そんな思いにふけりながら「いわき」まで続く福島県浜通りの麓の街道を突っ走る。

 でもやっぱり寒い。

 やがて富岡町へ突入する。途中、桜の名勝「夜ノ森公園」を通過。桜の花がちょうど見頃で大渋滞。しかし桜並木の8分咲きは実に見事だ。ここで、このページ冒頭の画像を撮影した。

 R6へ出ると渋滞は収まり、大好きな海の香も漂ってくる。

 富岡町のスーパーで今夜の食材を購入しようと駐車場へ入った。するとどこかで見たDR650が停められていた。あきらかに旅系の匂いが漂う過積載だ。

 買い物を済ませレジに向かうと東京のローホーさんだ。やっぱり。
 ローホーさんは、にっこりと微笑みながら
「キタノさん、お久しぶりです」
 相変わらず温厚そうなオーラが漂っていた。

 昨年の11月26日のEOC以来だ。三春町の有名な「滝桜」を見学してきたそうだが、まだ蕾で桜を見れなかったらしい。しばし談笑し、楢葉町の天神岬キャンプ場を目指す。

ローホー氏
 もう何度も利用しているキャンプ場なのでMAPなしでも道を間違えることなどあり得ない。順調に天神岬スポーツ公園の施設内へ入ったが、最後の最後にキャンプ場ではなく神社の駐車場へ紛れ込んでしまいUターン。ローホーさん、失礼しました。

 キャンプ場へ乗り入れた。本当は乗り入れ不可なんだが前回のEOC楢葉で
「遠慮しなくていいんだ。駐車場の深夜は治安がよくない。だから空いている時は中に乗り入れて構わないんだよ、ここは」
 と作業員のおじさんから許可を得ている。

 海風が吹きさらしの荒々しいサイトだ。やっぱり風が強く本当に寒い。

「どうもお久しぶりです」
 既にさいたまのBM乗り、シェフ高橋さんが到着していて、おおよそのテン場を決めてくれていた。いつもの東屋付近は先着のライダーたちが幕営を終えていたので諦めるしかなかった。

 冷たい風に煽られながらテント設営。この場合は風上からテントを流すように設営するとよい。こういう小技は過酷なキャンプツーリングを継続しているうちにいつの間にか身についていた。
 アライ・エアライズU。

 山岳用の軽量テントだ。「裏山からヒマラヤまで」がキャッチフレーズで定評がある。山行以外の旅ではオプションの外張りを着用することにした。

 さて今宵の初投入での寝心地は如何なものになるのであろうか。内部の空間は申し分のない広さだ。新しいテントの匂いもなんともいえない初々しさを醸し出していた。

団長Gen氏

やまちゃん

吉野氏
 左から夕張の快速旅団団長Gen氏、千葉のやまちゃん、同じく千葉の吉野氏が続々と到着し、サイトは一気に活況を呈し始める。

 ご存知「快速旅団」、団長さんは東京へ営業を兼ねたツーリングを終え、帰路キャンツーを続けながら北上、明日、仙台港からのフェリーで夕張へ戻る予定だ。今回は参天Hex3を投入。

 やまちゃんは、昨年、あのEOC美流渡でテントなしデビューを果たした男だ。以来、泣く子も黙る尖鋭的キャンツー集団「EOC」へハマり、テントを購入。一見、モンベルムーンライト風のテント(上野の光輪オリジナルらしい)を設営。また手造り珈琲酎まで持参してもらう。

 吉野さんは、快速旅団のHPを見て今回のEOCの企画を知り、当日参戦していただいたとのこと。さりげなく参天MPシェルターを使いこなす、実は野営の実力派だったりする。

 団長さんとローホーさんは、十勝川温泉(モール温泉)へ酷似すると言われる(高橋氏談)天神岬温泉へと向かった。どうやら満足いただけたようである。
 その頃、見覚えのある黒い隼がサイトに入ってきた。こっちを見て会釈をしているぞ。
「こんばんは、Makisyoです」
 Makisyoさんは、友人と東京から大洗までツーリングをし、そこから単騎常磐道を北上されたとのこと。明日は仕事があるそうで夜のうちに常磐道〜磐越道〜東北道をアクセス、那須の定宿に宿泊し、明日払暁には東京へ戻るそうだ。

 凄い行動範囲だ。

Makisyo氏

画像提供:ローホー氏
 高橋さん(焚き火台)、ローホーさんとキタノ(コンロ)は、火器を取り出し炭焚きを始めた。当初、炭のつきがよくなかった俺の炭へ、高橋さんが例の火炎放射器でファイヤー。あっという間に炭がオレンジ色の炎をあげた。

 ローホーさんは、持参されたシシャモやMakisyoさん差し入れの干物を炙って皆さんにふるまっていた。高橋さんは大量の餃子を茹で上げ、水餃子を披露。この水餃子のレシピは熱湯で茹でるだけなのだが、簡単かつ実に美味しい。
 その頃、残念ながら明日、仕事があるため、那須で宿をとるMakisyoさんが帰還。遠いところ弾丸ツーリングでの参戦ありがとうございました。また美味しい干物もご馳走様です。次回はフル参戦されてください。お気をつけて。
 入れ替わるように福島県内からヤスくん参戦。彼は以前の職場でキタノの直属の部下だった。また彼がまだ高校生の頃から俺の薫陶を受けていた経緯もある。

 今回、EOC初参戦ということで、かなり緊張していたようだが、すぐに打ち解けて皆さんと歓談していた。

ヤス氏

 ヤスが焼き鳥を焼いている頃、やまちゃんと俺はBBQ班として炭焼きコンロにお肉を乗せていた。しかし、このあたりにスーパーは少なく、皆さん同じスーパーで肉を購入したようだ。つまり同じ内容の肉が出揃ってしまう。

 肉を乗せるとキタノのコンロの火力は一気にあがりすぐに焦げてしまう。やまちゃんは悪戦苦闘していたが、ついに諦めローホーさんのコンロで炙ってもらう。ついでにキタノ持参のエビも。

 と書いているいる間にも高橋さんの水餃子が次々に仕上がり、皆さんの皿の上に乗ってくる。もう本当に腹一杯である。いったい高橋さんは宇都宮餃子を何十個持参したのだろうか?この水餃子の技はキタノの個人的なキャンプでも使わせていただこう。

 やまちゃんが、自家製の珈琲酎を取り出し、皆さんにふるまっていた。美味い。旅の味、キャンプの味、北の大地の味だ。そういえば前回はヨーコさん手作りの珈琲酎をご主人であるともさんが持参し、ご馳走になったっけな。

 その頃・・・

 やまちゃんの携帯が鳴った。なんてタイムリーなんだろう。ともさんからだ。

「やまちゃん、EOC盛り上がってる?」
「ええ、楽しく飲んでますよ」

 俺も少し話したが本当に残念そうだった。会社の研修で参戦できなかったともさんだが、実は一番EOCを楽しみにしていた男なのだ。

「キタノさん、ヨーコさんが言ってましたけど、研修先からEOCに行きたいようって電話があったみたいですよ」
 やまちゃんが続けて
「夏の北海道の前にもう一度、EOCやってくださいって、ともさんが言ってました」
 と呟く。
『おう、それなら7月あたりに裏磐梯で考えてみるか』
 とヨッパライダーに変身しつつあり、嵐の前の静けさのキタノは応える。

 知床岬縦走の話、去年のEOCの話、北海道のキャンプ場の話、とにかく北の大地の話題が尽きないのが、EOCだ。

 高橋さんが、以前の羅臼の熊の湯の状況には本当に腹を立てていたらしく、かなり熱いトークをされていた。

 俺はふと夜空を見上げた。満天までには至らないが星が出ていた。そして深々と寒さが身にしみる。皆さんの吐く息が白い。

 俺が小用から戻ると団長Genさんは、体調がイマイチらしく、もう一度温泉に入り体を暖めて就寝したとのこと。

 今、何℃なんだろう。

画像提供:ローホー氏
 このあたりから旅人キタノの記憶は尽きかけていくのであった。
『俺はテントの外で撃沈はしたくない。正月に誓ったんだ。キタノはエロかっこよくなるのだ』
 とワケの分からないことを口走しっていたらしい。

 詳細はローホーさんのレポだけが頼りだ。すいまんせんが、参考にさせていただきます。
 どうやらヨッパライダーキタノとしては驚異的な粘りを見せ、撃沈を堪えていたようだ。

『俺は撃沈しねえぞ』
 ほとんど呪文のように反芻する。

 やがてキタノは、キャンプ椅子からずり落ち、ほとんど正座状態に。さらには焚き火台に顔面を突っ込みそうになり、危うくやまちゃんとヤスに両腕を抱えられ難を逃れたらしい。

 ここでローホーさんが、画像を1枚!

 パシャ!
「先輩、もう寝ましょう。わたしも同じテントで寝ますから」

 見かねたヤスが、俺のエアライズへ泊まるだと。
『やだね。同じテントで男同士で眠りたくねえ。俺はホ○タップじゃねえぞ』
 と喚いていた・・・らスィ。 

画像提供:ローホー氏
 考えてみればヤスはワカサギ釣り用のシェルターを立てていた。こんな寒空でワカサギシェルターじゃ凍死するだろう。

 密かにヤスはキタノのベース、裏磐梯桧原湖でワカサギ釣りを冬季は楽しんでいる。しかもTV取材されてるし。ヤスのTV出演は関係者の間でホットな話題となっていた。

 テントの中で、騒いでいるうちにいつの間にか爆睡してしまう。

 本当に熟睡してしまった。4月から転勤で慣れない環境の中、不器用なキタノがそれなりに奮戦していた。知らずに疲れが蓄積していたのかも知れない。

 エアライズU、NASAシート、エアマット、オーロラ1000という冬山登山級の重装備が非常に快適だった。テン泊でこれほど心地よく快眠できたのは初めてのことだ。

画像提供:ローホー氏
 翌朝・・・

 エアライズに当たる雨音が激しくこだまする。

 豪雨だ・・・

 でも新品のエアライズは雨漏の心配がまったくない。楽勝だと思いふと横を見るとヤスが熟睡していた。

 ギョ! 
 そういえばヤス始め若手連中は、よくうちへ酒を飲みにきてはベロンベロンに酔い掘りコタツで撃沈していた。その頃を回想すると吹き出してしまう。

 いい時代だったと思う。

 時が過ぎ、俺も歳をとった。そして今ではヤスも結婚し子持ちになった。

 いつの間にか起き出したヤスと近況を語り合っていると雨が止んできた。

 ふと思う。世の中は変わってもキタノは、その頃から本質的になにも変わっていないつもりだ。酒が好きだ。オートバイでのキャンプ旅も好きだ。なにより真摯な若者の話を訊き、面倒を見るのも大好きだ。そのことに見返りを求めることなど旅人キタノは決してしない。

 そして損得を考えない古きサムライの存在は、管理主義の支配層からいつしか疎んじられるようになっていた。いま時、キタノのような昔気質のアウトローが形成するインフォーマル集団など、表面上しか見えない連中からは危険分子だし、得体の知れない不気味な徒党でしかないのだろう。いつ反旗を翻すやも知れないし。

 昭和は遠くになれりけり・・・

 テントの外へ出ると団長Genさんが
「キタノさんにしては珍しく寝坊ですね」
 と微笑んでいた。

 雨があがっても、やっぱり寒い。

「おはようございます」
 皆さん、元気に続々とテントから出てきた。 
 俺とやまちゃんはEOC恒例の残りの焼肉炙りを開始。

 焼いても焼いても肉は一向に減らない。それに朝の焼肉は世界胃酸。腹にとても重かった。

『奥さんに持っていけ』
 ついに俺はクーラーボックス持参のヤスへ残りの肉を渡した。次回は分担も必要になるかな?
 画像提供:ローホー氏
 ようやく雲が切れ、日差しが見えてきた頃、参戦者最年長の吉野さんが野営用のトースターを取り出し、トーストを焼き始めた。さらに並行しベーコンエッグも調理していた。

 その手際のよさ、仕上がり、美味しさは本物だった。

 寡黙ながらも旅を口先だけで語る人柄ではない。それなりの修羅場をくぐってきた実績のあるかなり熟練のキャンパー、筋金入りの旅系ライダーとお見受けしたが。

 さりげなく
「またEOCの企画があったら参加してみるよ」
 とおっしゃっていた。

 お待ちしています。
 高橋さんは、せっかく持参したのだからとタラコスパゲティーを調理し始めた。スパゲティを茹でながら、フライパンにオリーブオイル、スライスしたガーリック、さらにバターを加えプレヒートしていた。

 そしてタラコの皮を剥ぎ海苔の準備をしている。本格的だ。とても野営料理とは思えない。
 こんな感じにタラコスパゲティは仕上がる。

 レストランのような味をご馳走になったが、本当に超満腹となってしまう。

 高橋さんはクレイジーソルトまで持参していた。クレイジーソルトは、以前、冬の北海道の旅で取り上げたことがある。「かみふらの道楽館」でも使用している素材を活かす魔法の調味料なのだ。これをEOCで拝見できるとは凄い!
 その頃、キャンプ場の作業員のオヤジが現れ
「いいって言われたのかも知れないけどサイト内にバイクを入れられると困るんだよね。できればバイクを押して出てもらいたいくらいだ」
 馬鹿かオマエ。言ってることが矛盾し過ぎて吹き出してしまった。日本語を勉強したまえ。作業員同士で、もう少し統一見解を持ってから客に言うのが筋だ。

 本日、仙台からフェリーで夕張まで帰還する団長Genさん、結婚記念日(おめでとうございます)のローホーさん、午後から家庭サービスのヤスくん、裏磐梯や北海道のEOCに参戦できるかもしれない吉野さんと皆さん次々に日常へと回帰していく。

 一人ひとりへお世話になったことを謝し、見送らせていただく。

 高橋さん、やまちゃん、キタノの3人で併設された天神岬温泉へ向かう。茶色に濁った湯は、いかにも効能がありそうなよいお風呂だ。キャンプの締めの温泉って本当にいい取り合わせだ。
 高橋さんもさいたまに向かい出撃。GWには奥さんと東北一周ツーリングを敢行されるそうだ。いろいろご馳走になりました。どうかいい旅を楽しんでください。

 BMの軽やかな排気音を残しながら天神岬スポーツ公園を立ち去っていく。

 陽は照っているが、今日も寒い。しかし、やまちゃんとキタノはウィンディーランドの手作りアイスクリームをなぜか食べていた。
 俺とやまちゃんは、去年のEOC美流渡のように最後まで残った。

 俺もゼファーに跨るとやまちゃんが
「7月の裏磐梯EOC楽しみにしてますよ」
 とにこにこしながら呟いていた。

 サイクリングターミナルの眼下には、どこまでも青い海がなんの屈託もなく穏やかに広がっている。

 俺は冷風を体一杯に受け止めながらアクセルをあげた。

 思ったより心地いい。

 8分咲きの桜の中、春爛漫のR6を駆け抜ける。

 いよいよ今シーズンのキャンプツーリングの幕はきっぱりと下りた。

 幕が下りた?

 キタノさん、幕が下りたって、もう今シーズンが終わっちゃいますよ(北海道在住の某氏からメールでご指摘いただく)

 もとい!

 いよいよ今シーズンのキャンプツーリングの幕は桜前線の北上と共にきっぱりと開いたのだ! 




FIN



記事 北野一機



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